2025.07.16

  • コラム

パート・アルバイトも必須。アルコール検査義務化への対応

アルコールチェックの義務化が進む中、小売業やサービス業の現場では、新たな課題が浮上しています。

多くの従業員がパートやアルバイトで構成され、直行直帰やシフト勤務が一般的である現場では、アルコールチェックの運用に混乱が生じています。

「非正規雇用だから対象外ではないか」「点呼は社員だけでよいのでは」といった誤解が残る状況では、法令に沿った体制整備が急がれます。

本記事では、アルコールチェックの運用に課題を抱える現場担当者に向けて、パート・アルバイトを含む多様な雇用形態に対応する具体策を提示します。

安全運転管理者の役割、補助者の活用、クラウド型の点呼支援ツールなど、現場の実態に即した運用方法を解説し、実務に役立つ情報を提供します。

パート・アルバイトでも「運転者」なら対象に

道路交通法施行規則の改正により、2022年4月から「業務で車を運転する者」は、雇用形態を問わず、安全運転管理者によるアルコールチェックの対象となりました。

パートやアルバイトであっても、業務で運転を行う場合は、正社員と同様に法的義務を負います。

このルールが浸透していない事業所では、点呼の実施漏れや記録の欠落が発生し、結果として道路交通法違反につながるおそれがあります。

業務での「運転」とは何を指すのか

安全運転管理者による酒気帯び確認が必要とされる「運転」とは、単に車を操作する行為に限らず、業務の一環として行うすべての運転を指します。

社有車による配達・集荷業務
商品運搬や営業・物流に関わる運転も対象です。

送迎業務
介護施設や保育園での送迎も該当します。

店舗間移動のための運転
シフトの都合による複数店舗間の移動なども、業務に含まれます。

このように、「運転時間が短い」「自家用車だから」といった理由で確認を省略することは、法令上認められていません。

「非対象」の誤解とそのリスク

「アルバイトには関係ない」「配送係だけなので対象外」といった誤解は、法令違反につながる可能性があります。

以下のようなリスクが存在します。

確認義務違反による行政処分
アルコールチェック未実施は、安全運転管理者の義務違反に該当し、罰則や業務停止命令の対象となります。

事故発生時の損害賠償リスク
記録が残っていない場合、管理責任が問われ、賠償範囲が拡大する可能性があります。

社会的信用の低下
事故や違反が報道された場合、企業のイメージ低下につながります。

運転の有無は業務開始前に明確にし、パート・アルバイトを含む全員に対して、適切な点呼を行う体制が求められます。

点呼・確認体制の整備が不可欠

アルコールチェックの義務化により、単に測定を行うだけでなく、点呼体制の整備と記録の保管が必要です。業務開始前および終了後に、運転者一人ひとりの酒気帯び有無を確認し、その内容を記録として1年間保存する義務があります。

とくに小売業やサービス業では、勤務時間が多様で、早朝や深夜に及ぶことも少なくありません。このような時間帯でも、例外なく確認と記録が必要です。

早朝・深夜シフトでも義務あり

安全運転管理者が常に勤務しているとは限らない早朝や深夜であっても、アルコールチェックは省略できません。

確認者不在でも義務は免除されない
管理者が不在であることを理由に点呼を行わない場合、法令違反となります。

直行直帰・夜間業務には柔軟な対応を
一部の業態では深夜の出庫や帰庫が常態化しており、点呼体制の工夫が求められます。

常駐が難しい場合の代替手段を明確にする
補助者の配置やITツールの活用により、確認体制の維持が必要です。

補助者制度の活用で属人化を防止

安全運転管理者が点呼を実施できない時間帯や拠点では、「副安全運転管理者」または「業務補助者」の制度を活用できます。

補助者は任意に選任できる
補助者には資格要件はなく、警察署への届出も不要です。

管理者の指導下で業務を実施
補助者は確認結果を管理者へ報告し、指示を受けて対応します。

点呼業務の委託も可能
要件を満たせば、外部業者に点呼を委託することも認められています。

属人化の回避と運用の安定化に有効
管理者不在時の業務停滞や記録漏れを防ぐ手段として有効です。

雇用形態・勤務実態に合った点呼手段を選ぶ

業務形態が多様化する中、すべての状況で対面による点呼を実施することは現実的ではありません。とくにパート・アルバイトが中心となる現場では、勤務実態に合った点呼手段の選定が、法令順守と効率的な運用の両立に不可欠です。

対面点呼(基本手段)
原則として、管理者との対面で運転者の状態を確認します。ただし、時間帯や場所によっては実施が困難な場合もあります。

リモート点呼(準対面方式)
音声通話やビデオ通話を用い、運転者の状態や測定結果を確認する方法です。

クラウド型システム連携
アルコール検知器とシステムを連携させ、測定データを自動で保存・管理する方式です。

自己報告型点呼の限界と留意点

検知器の結果を撮影し、メールやチャットで報告する方法は、法令上の点呼としては認められていません。

メール・FAXは一方通行の手段にとどまる
双方向のやりとりがないため、運転者の状態確認とは見なされません。

確認者の責任を果たせない
声の調子や表情、応答の明瞭さを確認できないため、点呼の要件を満たしません。

正しい代替手段の選定が重要
音声または映像による対話が最低条件となります。

直行直帰に対応する方法

外回りや店舗間移動などで直行直帰が多い現場では、柔軟な点呼体制の構築が求められます。

携帯型検知器の活用
運転者が現地で測定し、結果を管理者へ報告します。

ビデオ通話やモバイルアプリの利用
表情・音声・測定値を同時に確認できる手段が有効です。

クラウドシステムによるリアルタイム管理
測定結果が即時に記録され、遠隔地からでも管理が可能です。

現場運用の柔軟性を高める対応策比較

アルコールチェックを継続的に実施するには、現場の人員構成や業務内容に応じた方法の選定が重要です。

ここでは、代表的な3つの点呼手段を比較し、それぞれの特徴と適性を整理します。

紙台帳+市販チェッカー方式
市販のアルコール検知器と紙の記録簿を併用する、最もシンプルな方式です。

スタンドアロン型測定器
測定データを端末に記録できる機器を使用し、記録内容は後から手動で集約します。

クラウド型システム連携
検知器とクラウドシステムが連動し、測定結果が自動で記録・共有される方式です。

点呼方式の選定は、事業所の規模、勤務形態の多様性、管理体制などを踏まえて判断することが求められます。

クラウド型アルコールチェックが実務の味方に

複数拠点での運用や非正規スタッフの多さ、直行直帰の頻度が高い現場では、クラウド型のアルコールチェックが有効な選択肢となります。

人員に余裕のない現場でも、デジタルツールを活用することで、安定した点呼体制を構築できます。

クラウド型の主なメリット

記録の自動化
測定と同時に日時・結果・運転者情報が記録され、手書きミスや改ざんリスクを抑えられます。

リアルタイムでの情報共有
測定結果が即座に管理画面へ反映され、離れた拠点でも状況確認が可能です。

本人認証と位置・時刻の記録
誰が、いつ、どこで測定したかが自動で記録され、確認体制の信頼性が高まります。

データの可視化・分析
ダッシュボード機能により、点呼実施状況を一覧で把握できます。報告や監査対応にも役立ちます。

クラウド型のシステムは、管理者の負担軽減と記録の正確性向上を同時に実現できる仕組みです。

導入時の注意点とコスト面

クラウド型システムの導入には、いくつかの準備と費用面の確認が必要です。

機器の選定と初期設定
携帯型端末や検知器の設定、運転者への操作説明などの準備が必要です。

運用コストの把握
月額料金制が一般的で、使用台数やアカウント数によって費用が変動します。

通信環境の整備
モバイル通信やWi-Fi環境が必要となるため、利用場所によっては事前の確認が欠かせません。

保守・交換対応
故障時の対応や定期的なセンサー交換など、機器の保守管理もあらかじめ計画が求められます。

導入にかかる初期コストや手間を考慮しつつ、業務効率・記録精度・法令対応の向上という効果とのバランスを検討することが重要です。

安全運転管理の徹底が企業の信頼を守る

アルコールチェックの義務化は、単に法令を守るというだけでなく、企業の信頼性や社会的評価に直結する重要な取り組みです。

とくに小売業やサービス業のように、消費者との接点が多い業種では、従業員の運転が企業の印象に大きな影響を与えます。

不備が明るみに出れば、信頼の失墜だけでなく、業務停止命令や賠償責任にも発展しかねません。

「小規模だから」「アルバイト中心だから」は理由にならない
法令では、業務で運転を行うすべての従業員が確認義務の対象とされており、雇用形態は関係ありません。

安全運転管理は企業信用の基本
点呼の未実施や記録漏れは、行政処分や損害賠償のリスクを伴います。

効率性と信頼性の両立が重要
業務効率の向上だけでなく、社会から信頼される企業づくりの一環として、安全運転管理を位置づけることが求められます。

適切な点呼体制と柔軟な運用方法を整備することで、現場の混乱を抑えながら、企業全体の信頼性向上につなげることができます。

自社の勤務実態に合った運用体制を見直そう

パート・アルバイトを含むすべての運転者に対して、法令に沿ったアルコールチェックを実施するには、現場ごとの勤務実態を正確に把握することが重要です。

現場の実態を把握する
誰が、いつ、どのように車を使用しているかを明確にし、運転業務の範囲と頻度を洗い出します。

点呼実施の責任者を明確にする
安全運転管理者だけでなく、補助者や外部委託先も含めた実施体制の整備が必要です。

勤務パターンに応じた手段を選定する
直行直帰が多い場合はモバイル連携、常駐勤務には対面点呼など、勤務形態に合った方法を採用します。

継続的な見直しと教育を行う
法改正や人員変更があった場合は、点呼体制を見直し、運転者への周知や研修を継続的に実施します。

点呼体制は一度構築すれば終わりではなく、状況に応じた更新と改善が必要です。継続的な運用見直しが、安全意識を定着させる基盤となります。

まとめ

パートやアルバイトなどの非正規雇用者であっても、業務で車を使用する場合は、安全運転管理者によるアルコールチェックの対象となります。

「パートは対象外」「直行直帰だから対応が難しい」といった誤解や慣習を見直し、実態に合った運用体制を整えることが求められます。

●点呼の記録と確認手段の整備は、法令順守の基本であり、業務上のリスク軽減にもつながります。

●クラウド型点呼ツールや補助者制度を活用することで、柔軟な勤務体系にも対応可能です。

●アルコールチェックの徹底は、義務対応にとどまらず、企業の社会的責任を果たすための基盤になります。

まずは自社の運転業務を見直し、実情に合った点呼体制と運用方法を検討しましょう。柔軟かつ実効性のある仕組みづくりが、安全で継続的な業務運営につながります。