
2025.10.20
- コラム
【最新版】安全運転管理者が不要な事業所の条件とは?義務対象との違いを徹底解説
自社が安全運転管理者を選任しなければならないのか――この問いに対して、明確な答えを持てている企業は多くありません。車両を数台保有しているだけでも義務があるのか、あるいは制度の対象外で問題ないのか。こうした判断は道路交通法に基づいて正確に行う必要があります。
とくに2022年の法改正以降、安全運転管理者の選任義務違反には最大50万円の罰金が課されるようになり、実務上のリスクは無視できないものとなっています。その一方で、実際には「自社は対象外」として義務が発生しないケースもあり、制度の正しい理解が不可欠です。
この記事では、安全運転管理者が「不要となる」ケースに焦点を当て、対象外とされる条件・例外・注意点を整理します。制度を正しく理解し、自社が義務の対象かどうかを判断できるよう、実務に沿った視点で解説していきます。
自社が「安全運転管理者を置かなくていい」条件とは?
安全運転管理者の選任が不要となるかどうかは、法律上の要件に基づいて判断されます。事業所ごとに車両の種類や台数を確認し、制度上の条件を満たしていなければ、選任義務は発生しません。
選任義務の有無は「使用の本拠地」(営業所や拠点)ごとに判断され、法人全体の保有台数とは別にカウントされます。以下に該当しない場合、安全運転管理者は原則として不要です。
基本ルール:使用台数と車種で判断する
安全運転管理者の選任義務は、「どんな車両を、何台使用しているか」で決まります。
制度上の基準は以下の通りです。
●乗車定員が11人以上の自動車を1台でも保有している
この場合は、台数に関係なく義務が発生します。
●上記以外の自動車を5台以上保有している
普通自動車・軽自動車などを合計で5台以上保有している事業所は対象になります。
●自動二輪車は0.5台としてカウントされる
原付を除く二輪車は、2台で1台分として計算されます。
5台未満であれば原則不要(ただし注意点あり)
以下の条件をすべて満たしていれば、安全運転管理者の選任は原則として不要です。
●普通車・軽自動車などを合計で4台以下
●乗車定員11人以上の車両を含まない
●二輪車を含む場合は0.5台換算後も合計が4.5台以下
ただし、次のような点に注意が必要です。
●1台でも乗車定員11人以上の車両が含まれると、1台でも義務が発生します。
●「5台未満」でも、自家用有償旅客輸送など別の制度対象になっている場合は別途検討が必要です。
●車両管理を一括で行っている企業では、本社集中管理とみなされるケースもあります。
自動二輪・小型特殊車両のカウント方法に注意
自社で二輪車を業務に使っている場合は、台数換算に注意が必要です。
●自動二輪車(50cc超)は1台あたり0.5台として換算
●原動機付自転車(50cc以下)は台数にカウントしない
●小型特殊車両(農耕用など)は制度上の対象外となることがある
とくに配送業や建設業などで二輪車を複数使用している企業では、知らずに5台換算を超えていることがあります。二輪車も業務に使用している場合は、0.5台換算を必ず適用してください。
乗車定員11人以上の車両を1台でも保有している場合
バスやマイクロバスなど、乗車定員が11人以上の車両を1台でも保有している場合、安全運転管理者の選任が義務となります。これは台数に関係なく適用されるため、1台だけでも選任が必要です。
送迎バスや社内イベント用に一時的に導入された車両も対象となるため、定期利用かどうかにかかわらず「保有=義務発生」と認識しておく必要があります。
「副安全運転管理者」が不要なケース
安全運転管理者とは別に、副安全運転管理者(補助役)を置く必要があるかどうかは、保有台数によって判断されます。
以下の通り、保有台数が一定以下なら副管理者の選任は不要です。
●保有台数が19台以下 → 副安全運転管理者は不要
●20台以上になると、副管理者を1人選任する義務がある
●40台以上で2人、60台以上で3人と、20台ごとに追加選任義務がある
副安全運転管理者は、事故防止のための点呼やアルコールチェックの補助を行う役割を担います。多台数を運用している事業所でなければ選任義務は発生しません。
安全運転管理者制度の「除外対象」になる具体例とは?
安全運転管理者の選任義務には明確な除外規定が存在します。これらの条件を満たす事業者・事業所であれば、たとえ多数の車両を使用していても選任義務の対象外となることがあります。
以下では、制度上明確に「除外対象」とされている代表的なケースを紹介します。
緑ナンバー車両(営業用)で運行管理者を選任している事業所
営業用自動車(緑ナンバー)を使用する運送事業者などは、別の制度である「運行管理者制度」の対象となります。この場合、安全運転管理者の選任義務は重複して課されることはなく、運行管理者を置いていれば、安全運転管理者は不要です。
●自動車運送事業法に基づき、運行管理者の選任が義務付けられている
●対象業種には、一般貨物自動車運送業・旅客運送業などが含まれる
●緑ナンバーの車両を営業に用いている事業所が該当
たとえば、配送業やバス会社などでは、運行管理者がすでに運行・安全・健康状態の管理を行っており、安全運転管理者と同様の機能が制度上カバーされています。そのため、選任義務が免除されるのです。
自家用有償旅客運送者は制度の対象外に(2022年改正)
自家用車を使用して一定の条件のもと有償で旅客を輸送する「自家用有償旅客運送」制度は、地域公共交通の確保を目的とした制度です。2022年の制度改正により、これらの事業者は安全運転管理者制度の適用対象外とされました。
●自治体などの要請で運行される、過疎地域の送迎バスなどが該当
●白ナンバーの自家用車を使うことから、制度適用の誤解が生じやすい
ただし、制度の除外対象となるには国土交通省および自治体からの認可・届出が必要であり、任意で開始した有償輸送事業は除外対象となりません。制度の範囲内で活動していることが前提となります。
よくある誤解:自社は本当に「不要」か?
安全運転管理者の選任が不要と思われていても、実際には制度対象であるというケースが少なくありません。見落としやすいポイントを整理しておきましょう。
本拠地(拠点)ごとの台数で判断される
選任義務の判断は、「法人全体の車両台数」ではなく、「各事業所(本拠地)単位の車両台数」で行います。以下のようなケースに注意が必要です。
●各営業所がそれぞれ4台ずつ保有している → 各拠点で義務なし
●本社が5台以上の車両を一括管理している → 本社に義務あり
拠点ごとの管理体制が明確であれば、個別に判断できます。ただし、名義上の拠点があっても実質的に車両を一括管理している場合は、本社での一括台数カウントとされる可能性があります。
車の使用目的が「業務」か「通勤」かでも変わる
社員の通勤用として会社名義の車両を貸与している場合でも、「会社が運行管理している」と判断されると、安全運転管理者の選任が必要になることがあります。
●車両が会社名義であり、使用スケジュール・点検を会社が管理している
●通勤のみ使用しているが、事業所管理下で運用されている
このような条件が揃っていれば、業務用車両とみなされ、制度の対象となる可能性があります。逆に、従業員の自家用車による通勤は制度対象外です。
届出漏れ・解任忘れによる違反リスク
制度上は、以下のような場合に届出を行う必要があります。
●選任が必要となったとき → 選任後15日以内に届出
●選任者の変更があったとき → 解任・再選任の届出が必要
義務対象であるにもかかわらず、届出を怠った場合、次のような罰則が科されます。
●選任義務違反:最大50万円以下の罰金
●届出義務違反:5万円以下の罰金
特に本社と現場が分かれている企業では、担当者変更時の情報伝達漏れが発生しやすいため注意が必要です。
運行管理者制度との違いと関係性を正しく理解する
安全運転管理者と運行管理者は、どちらも車両の安全管理を担う役割ですが、制度の根拠や対象事業者が異なります。両者を混同すると、誤って重複して選任してしまったり、逆に義務を見落とすリスクがあります。
ここでは、それぞれの違いと、どのようなケースで安全運転管理者が不要になるのかを明確に整理します。
安全運転管理者と運行管理者の業務の違い
両制度の違いは、対象となる車両の用途や業種、法令上の位置づけにあります。
●安全運転管理者
道路交通法に基づき、自家用車を業務に使用している一般事業者が対象。
アルコールチェック、日常点検、安全教育などを行う責任者です。
●運行管理者
自動車運送事業法に基づき、営業用車両(緑ナンバー)を使用する運送業者が対象。
ドライバーの点呼・休憩・勤務時間管理・運行指示などを行う専門職です。
業務内容には一部重複もありますが、法律や対象業種が異なるため、それぞれの制度に応じた適切な管理体制が求められます。
緑ナンバーを使っているなら要チェック:除外要件の有無
営業用の車両(緑ナンバー)を使用している場合、その事業所がすでに「運行管理者」を選任していれば、安全運転管理者の選任義務は免除されます。
●運行管理者を選任している事業所 → 安全運転管理者は不要
●営業用車両であっても、制度未整備なら重複義務の可能性あり
ただし、運行管理者の選任が完了していない段階や、制度対象外の業務に車両を使っている場合、安全運転管理者の義務が残ることがあります。適用除外されるには「制度的な管理責任」が確保されていることが前提です。
たとえば、以下のようなチェックポイントが有効です。
●車両は緑ナンバーか?(白ナンバーなら対象外の可能性あり)
●運行管理者制度に基づいて管理者が正式に選任されているか?
●事業所単位で届出・記録・管理体制が整備されているか?
これらを満たしていれば、安全運転管理者を別に選任する必要はありません。
実際のケースに学ぶ「選任義務がない」事業所のパターン
制度の理屈だけでは、自社の状況に当てはまるか判断しにくいことがあります。ここでは、実際の事例として「安全運転管理者の選任が不要」とされた典型パターンを紹介し、読者自身の判断の参考にしていただけるよう整理します。
小規模事業者(車両2〜3台)の例
●車両台数:普通車3台
●拠点数:1か所
●車種:乗車定員10人以下
●使用目的:営業用に使用(白ナンバー)
このケースでは、乗車定員11人以上の車両がなく、台数も5台未満であるため、安全運転管理者の選任は不要です。
二輪車のみを使用する事業所の例
●使用車両:125ccの自動二輪3台(計1.5台として換算)
●拠点:1か所で全台数を使用
●用途:配達業務に使用
自動二輪は0.5台として計算されるため、3台では1.5台となり、義務対象の5台には届きません。従って、選任は不要です。ただし、軽四輪などと混在する場合は、合算して判断する必要があります。
拠点分散型の企業の注意点と例外
●全体車両台数:12台
●拠点数:3か所(各拠点で4台ずつ保有・管理)
●拠点ごとに運用管理が明確に分かれている
このように拠点単位で5台未満の車両運用を行っている場合、それぞれの拠点では義務が発生しません。ただし、車両管理が集中していたり、実質的に一括運用している場合は本社に義務が発生する可能性があります。
安全運転管理者の選任が必要な場合との違いを明確に把握する
安全運転管理者が「不要」となる条件を正しく理解するには、「必要」となるケースとの違いを比較するのが効果的です。ここでは、判断基準となるポイントを一覧表形式で整理し、自社がどちらに該当するかを簡単に見極められるようにしています。
また、万が一「選任が必要」な場合には、どのような手続きが必要になるのかも簡潔に解説します。
「必要か/不要か」の判断ポイント早見表
以下は、事業所単位で安全運転管理者の選任義務が発生するかどうかを判断するための比較一覧です。
●乗車定員11人以上の自動車を1台でも保有している
→ 選任義務 あり
●普通車・軽自動車などを5台以上保有
→ 選任義務 あり
●自動二輪(50cc超)を複数使用し、0.5台換算で合計5台相当以上
→ 選任義務 あり
●台数が条件未満(4台以下+二輪含めても4.5台以下)
→ 選任義務 なし
●運行管理者を選任している緑ナンバー車両の事業所
→ 選任義務 なし
●副安全運転管理者の要否(20台以上)
→ 20台未満 → 不要/20台以上 → 必要
このように、「台数・車種・用途・制度の重複有無」が判断材料になります。曖昧な場合は警察署や公安委員会に確認するのが確実です。
選任義務がある場合に必要な手続きとは?
安全運転管理者を選任する場合は、所定の手続きと届出が必要です。主な流れは以下の通りです。
●選任者の条件を満たす人材を選ぶ
(原則として過去2年以内に重大違反がないなど)
●所轄警察署経由で公安委員会に届出を提出
(選任・変更・解任のいずれも届け出が必要)
●届出期限は選任から15日以内
●選任後は年1回、公安委員会指定の講習を受講
(6時間程度/費用は約5,000円程度)
●副安全運転管理者が必要な場合は、同様に届出と講習が必要
手続きを怠った場合、罰則が科される可能性があります。担当者交代や車両増加により基準を満たすようになった場合は、速やかに対応が必要です。
【セルフチェック】安全運転管理者が本当に不要か確認できる質問リスト
「自社にとって本当に不要なのか?」を判断するためには、制度の知識だけでなく、自社の状況と照らし合わせて考えることが重要です。以下に、セルフチェック形式の設問リストを用意しました。
以下の設問に該当するものが1つでも「はい」であれば、安全運転管理者の選任義務が発生している可能性があります。
●「本拠地あたりの車両保有台数は5台以上ですか?」
●「乗車定員が11人以上の自動車を使用していますか?」
●「自動二輪を2台以上、業務用に使用していますか?」
●「緑ナンバーではなく白ナンバーで業務用車両を運用していますか?」
●「通勤用途で使用する車両を会社が所有・管理していますか?」
●「車両の管理が1か所の本社に集中していますか?」
●「運行管理者制度の対象ではありませんか?」
●「副安全運転管理者が必要となる台数(20台以上)に達していますか?」
該当項目がある場合は、必要に応じて所轄警察署や公安委員会に確認を行い、制度違反とならないよう適切に対応してください。
安全運転管理者を選任しないリスクと法的責任
安全運転管理者の選任義務があるにもかかわらず、必要な手続きを怠った場合、企業には法律上の責任が生じます。これは単に罰金を支払うだけにとどまらず、信用や社会的評価の低下につながる重大なリスクです。
ここでは、制度違反に対する罰則や企業への実務的影響について整理します。
改正後の罰則:最大50万円以下の罰金
2022年10月に道路交通法が改正され、安全運転管理者制度の罰則が大幅に強化されました。選任義務があるにもかかわらず選任しなかった場合、以下の罰則が適用されます。
●選任義務違反 → 最大50万円以下の罰金
●届出義務違反(選任・変更・解任) → 最大5万円以下の罰金
特に注意が必要なのは、選任の有無を「自社判断だけで進めていた」場合です。制度を誤認していたとしても、違反には変わりません。警察や公安委員会の監査・指導が入った場合、罰則が科される可能性があります。
また、講習未受講も管理不備とみなされることがあり、定期的な管理体制の見直しが求められます。
社会的信用の毀損リスク
罰金だけでなく、安全運転管理者を選任していなかったことが外部に知られることで、以下のような社会的損失が発生する恐れがあります。
●取引先からの信頼低下・契約打ち切り
法令違反に敏感な企業ほど、コンプライアンス不備に厳しく対応します。
●従業員・採用面での影響
安全管理の不備が明らかになると、従業員の安心感や求職者の応募意欲にも悪影響が出ます。
●行政指導・改善命令の対象
道路交通法に基づく指導や行政処分の対象となるケースもあります。
企業が法令順守体制を示す意味でも、安全運転管理者の選任状況はチェックされやすい項目です。特に、車両を使って業務を行う業種においては、制度対応の有無が取引基準や入札要件になることもあります。
まとめ

安全運転管理者の選任が「不要」となるかどうかは、単に台数の少なさだけでなく、車種や拠点の管理体制、運行管理者制度との関係など、複数の条件を正確に見極める必要があります。
本記事では以下のようなポイントを明確にしました。
●選任義務が発生する条件(車両台数・車種・拠点ごとの判断など)
●運行管理者制度との重複排除による除外パターン
●実例に基づく「対象外となる」パターンの紹介
●誤解しやすい判断基準や注意点の整理
●選任しなかった場合のリスクと法的責任
もし「自社は少台数だから大丈夫」と思っている場合でも、業務実態や管理形態によっては義務が発生していることがあります。判断に迷う場合は、公安委員会や所轄警察署への確認が推奨されます。
正しく制度を理解し、安全運転管理者が本当に不要であるかを見極めることが、リスク回避と企業の信頼維持につながります。必要に応じて制度対応を見直すことが、今後の安全管理と法令順守体制強化への第一歩となります。