
2025.08.28
- コラム
安全運転管理者と運行管理者の違いとは?制度の境界と業務の全体像
はじめに
「安全運転管理者」と「運行管理者」——企業において運転業務に関与する管理者の制度は、この2つに大きく分かれます。しかし、両者の制度趣旨や対象事業者の違い、業務内容の重なりがあることから、「どちらが自社に必要なのか分からない」と悩む中小企業は少なくありません。
この混同は、単なる知識の曖昧さにとどまらず、重大な法令違反や事故リスクを引き起こす可能性があります。とくに近年は、アルコールチェックの義務化や点呼業務の厳格化など、安全運転に対する法的責任が年々強化されています。
本記事では、「安全運転管理者」と「運行管理者」の違いを制度の成り立ちから実務レベルまで丁寧に比較解説し、自社がどの制度対象に該当し、どのような体制を整えるべきかを判断できるように導きます。さらに、業務効率化に有効なクラウドツールの活用や兼任時のリスク回避策まで網羅します。
安全運転管理者と運行管理者の“制度上の立ち位置”を知ろう
安全運転管理者とは何か?
安全運転管理者とは、「道路交通法」に基づき、一定台数以上の車両を保有する企業に選任が義務付けられている管理者です。目的は、事業所における運転者の安全運転を確保し、事故防止を徹底することにあります。
●設置義務の条件
5台以上の自動車(または11人乗り以上の車両を1台以上)を業務で使用する事業所には、安全運転管理者の選任が義務付けられます。バイク(原動機付自転車を除く)も1台としてカウントされます。
●対象となる業種と事業者
運送業・建設業・営業車両を保有する企業だけでなく、社用車を複数保有する一般企業も対象です。つまり、道路運送事業者でなくとも、保有台数によってはこの制度に該当します。
●安全運転管理者の主な業務内容
運転者のアルコールチェックや健康状態の確認、安全運転指導、交通事故発生時の対応などが業務に含まれます。
運行管理者とは何か?
運行管理者は「道路運送法」に基づき、旅客や貨物を運送する事業者に義務付けられる国家資格保持者です。営業用車両を使用する事業者において、安全かつ効率的な運行を管理する役割を担います。
●設置義務の条件
国土交通省が定める許可・登録を受けた「旅客自動車運送事業者」および「貨物自動車運送事業者」は、一定の台数ごとに有資格者である運行管理者を選任しなければなりません。
●対象となる業種と事業者
バス会社、タクシー会社、宅配業者、物流事業者など、業として運送を行う事業者です。許認可を受けて営業用ナンバー(緑ナンバー)を取得していることが特徴です。
●運行管理者の主な業務内容
運転者への点呼、安全運行のための労務管理、運行計画の策定、異常時の対応などが中心です。安全と運行両面でのマネジメントが求められます。
両制度の“設置義務”の判断ポイント
どちらの制度に該当するかを見極めるためには、事業内容と車両台数の両面から判断する必要があります。
●判断ポイント1:使用目的と車両ナンバー
営業目的で使用し、緑ナンバーを取得しているなら運行管理者制度の対象。白ナンバーであっても一定台数以上保有していれば、安全運転管理者制度の対象です。
●判断ポイント2:保有車両の台数と種類
社用車が5台以上(または11人乗り以上1台以上)ある事業所は、安全運転管理者制度に該当します。バイクも含めてカウントされる点に注意が必要です。
●判断ポイント3:業種と許認可の有無
道路運送業の許可を取得している事業者(例:一般貨物自動車運送事業者)は、運行管理者制度の義務対象です。許認可がない一般事業者は安全運転管理者制度が適用されます。
法的根拠の違いから深掘りする役割の区別
道路交通法(安全運転管理者)で定められる義務
安全運転管理者制度は、道路交通法第74条の3に基づいて定められています。目的は「業務で自動車を使用する者の運転における安全確保」であり、交通事故の未然防止と、運転者の安全意識向上に重点を置いています。
●酒気帯び確認義務(アルコールチェック)
業務に使用するすべての運転者に対し、運転前後に酒気帯びの有無を確認する義務があります。令和6年12月からは、アルコール検知器の使用と記録保存が完全義務化される予定です。
●安全指導・啓発の実施
運転者への安全運転教育や運転日報の確認、交通事故・違反歴の把握と対応などを通じて、安全運転意識を高める指導が求められます。
●交通事故発生時の対応責任
事故発生時には、運転者の処遇や事故原因の分析、安全対策の再構築など、再発防止策の中心的な役割を担います。
道路運送法(運行管理者)で定められる義務
運行管理者制度は、道路運送法第21条などを法的根拠とし、営業用の運送事業者の運行安全確保を目的としています。労働時間管理や業務計画の立案など、より広範かつ高度な管理が求められます。
●点呼実施の義務
出庫時および帰庫時の点呼により、運転者の健康状態、酒気帯びの有無、疲労状況などを確認する義務があります。対面またはIT機器を用いた遠隔点呼にも対応しています。
●労務・労働時間の管理
過労運転や過密スケジュールによる事故を防ぐため、運転時間・休憩時間・乗務間隔などを管理し、法定基準内に収める必要があります。
●運行計画・経路管理
安全かつ効率的な配送・運送が行えるように、車両ごとの運行経路・スケジュールを策定し、異常事態への対応計画も含めて管理します。
法改正トレンドと今後の注目ポイント
近年、交通安全に関する法制度は、より厳格で実効性の高い方向へと進化しています。特に注目されるのが、アルコールチェック義務の強化です。
●2022年4月改正:酒気帯び確認の義務化
白ナンバー車両を保有する事業所に対して、運転前後のアルコールチェックと記録義務が課されました。検知器の使用義務は、2025年12月に完全施行されます。
●点呼制度のデジタル化
運行管理者による点呼業務も、ICTを活用した「遠隔点呼」「自動記録型点呼」などの導入が進みつつあり、将来的にはリアルタイムな運行監視体制が求められる可能性があります。
●労働時間規制の強化
物流業界では「2024年問題」として、時間外労働の上限規制が適用され、運行管理者に求められる労務管理の精度が大幅に向上しています。
これらの流れは、管理者制度においても「記録の確実な保存」「業務の見える化」「責任の所在明確化」がより重視される傾向にあります。
実務レベルでの具体的な違いとは?
安全運転管理者と運行管理者は、制度や法的根拠が異なるにもかかわらず、現場では「どちらも運転手を管理する人」として混同されがちです。実際に起こりやすいのが、「アルコールチェック=安全運転管理者の仕事」「点呼=運行管理者の仕事」という誤解です。しかし、こうした単純なイメージには大きな落とし穴があります。
アルコールチェックにまつわる誤解を正す
安全運転管理者がアルコールチェックを担当するのは事実ですが、ただ「測定する」だけでは義務を果たしたことになりません。実際には、以下のような業務が含まれます。
●チェックの実施体制整備
運転者が出庫前・帰庫後に必ずアルコールチェックを行えるよう、体制やルールを整備する責任があります。直行直帰や出張時でも対応できる体制が求められます。
●アルコール検知器の常時有効保持
検知器が故障・不在では義務違反となるため、正常に作動する機器を常に備えておく管理責任があります。定期点検や予備機器の用意も含まれます。
●記録の保存と管理
チェック結果は1年間保存が必要です。記録漏れや改ざん防止のため、手書きだけでなくデジタル記録の活用も推奨されます。
このように、安全運転管理者には「仕組みとして機能させる」マネジメント力が求められています。
点呼・運行経路・労務管理の実態を整理
一方、運行管理者の役割はより広範で、法的責任の重さも異なります。運転者との1対1の点呼から始まり、労働時間や運行内容のすべてを管理します。
●点呼で確認すべき項目
運転者の健康状態、飲酒の有無、免許証の携帯確認、車両の状態報告など、多岐にわたります。対面点呼が原則であり、非対面対応には厳格な条件が設けられています。
●運行経路と日報管理
「いつ、どこへ、どの車両が行くのか」という情報を、事前に計画し、当日確認し、帰庫後に記録として保存する必要があります。運転者の報告を受けて記録に残す義務も含まれます。
●労務管理の具体的内容
運転時間・休憩・待機時間を日単位・週単位で把握し、違反が出ないよう管理。健康診断結果の記録や、過労・病気の兆候がある運転者には乗務停止判断も行います。
このように、運行管理者は運転者一人ひとりの「当日の状態」と「全体のスケジュール」を同時に管理し、安全と効率の両立を図る責任があります。
クラウド型ツールがもたらす“業務効率化”の具体シーン
従来の安全運転管理者・運行管理者業務は、紙の記録、対面での確認、手作業での管理に依存していました。こうしたアナログな体制では、記録漏れやチェックの形骸化、対応の遅れ、不正の見逃しといった課題が発生しがちです。
これらの問題を解消する手段として注目されているのが、クラウド型管理ツールの活用です。アルコールチェックから点呼、記録管理まで、さまざまな業務を一元化・自動化できるため、多忙な管理者にとって大きな支援となります。
アルコールチェック業務で効果を発揮するツール機能
安全運転管理者が日常的に行うアルコールチェック業務では、クラウド型ツールの導入によって以下のような効果が得られます。
●記録の自動化
検知器とスマートフォンを連携させることで、測定結果がクラウドに即時記録されます。手書き記録の手間や漏れ、記録の改ざんリスクを防止できます。
●通知・アラート機能
アルコールチェック未実施や基準値超過があった場合、管理者にリアルタイムで通知されます。対応の遅れや見落としを防ぎ、事故の未然防止につながります。
●遠隔確認の可能性
直行直帰や出張中のドライバーも、スマートフォン経由で検知器を使用できるため、事業所にいなくてもチェック・確認・記録が完了します。
これらの機能により、安全運転管理者は「いつ・誰が・どこで・どのように」チェックを行ったかを確実に把握でき、法令遵守と業務効率化を両立できます。
点呼・運行記録との連携による運行管理者の負担軽減
運行管理者にとっても、クラウド化は業務の省力化・見える化に直結します。
●点呼記録の一元管理
点呼内容(健康状態、アルコール確認、運行予定など)をデジタル化し、クラウドに記録。複数拠点・複数車両の情報を一元的に把握できます。
●運行実績と労務情報の可視化
GPSや運行管理システムと連携すれば、実際の走行ルート・拘束時間・休憩状況なども自動で取得・保存。労働時間管理や日報の正確性が大きく向上します。
●リアルタイムでの状況把握と異常検知
急な遅延やルート逸脱、未点呼の運転などもリアルタイムで把握でき、迅速な対応が可能になります。
これにより、「全体を把握しきれない」「紙記録のチェックに追われる」といった管理者の負担を大幅に軽減できます。
コストとリターンのバランス/導入時のハードルと克服策
中小企業では、「便利なのは分かるがコストや導入の手間が不安」と感じる声も少なくありません。しかし、現実には以下のような費用対効果が明確に現れています。
●コスト削減効果
紙記録の印刷・保管コストや、記録確認・集計にかかる時間を削減。担当者1人あたり月数時間の作業が不要になり、人件費換算でも十分な価値があります。
●監査対応力の強化
運輸局や警察からの監査に対して、クラウド上の記録を即時提示できるため、信頼性と透明性が大幅に向上。行政指導リスクも低減します。
●初期導入時の不安の払拭
多くのサービスは、無料トライアルやサポート付き導入プランを提供しています。これにより、ITに不慣れな現場でも安心してスタートできます。
導入初期は多少の慣れが必要ですが、1〜2週間で定着するケースがほとんどです。長期的には「ミス防止」「監査対応」「管理者の時間創出」など、圧倒的なリターンが得られるため、初期のハードルを超える価値は十分にあります。
“兼任”が当たり前?中小企業における現場のリアル
中小企業では、安全運転管理者と運行管理者を1人の担当者が兼任するケースが非常に多く見られます。限られた人員・予算の中で、両制度の要件を満たすためにやむを得ず兼任体制を取っている企業が多数を占めます。
しかし、法令上はそれぞれが独立した制度であり、求められる管理水準も異なるため、兼任には相応の注意と体制整備が必要です。
兼任時の業務負担とリスク
1人が両制度の管理を担う場合、日々の業務は想像以上に煩雑で、多忙を極めることになります。特に次のようなリスクが浮上します。
●記録ミス・確認漏れ
点呼・アルコールチェック・労務管理・日報処理など、多くの項目を一人で管理すると、チェック漏れや記録の遅れが発生しやすくなります。
●制度間の混同・認識ズレ
安全運転管理者と運行管理者では、求められる法的責任や記録保存義務が異なるため、誤認した運用が原因で、監査時に法令違反を指摘されるケースがあります。
●心身負担の増大による業務品質の低下
常に複数の業務を並行して処理しなければならず、管理者本人が過労・ストレスを抱えてしまい、業務の品質や注意力が低下する懸念があります。
兼任は「できるかどうか」ではなく、「継続して適切に管理し続けられる体制かどうか」が問われる問題です。
規模別対応モデルの提案
兼任体制を維持しつつも、業務負担を適切に抑えるには、企業の事業規模に応じた対応モデルを構築することが重要です。
●小規模事業所(車両5〜10台)
少人数での運営が前提のため、クラウド型ツールを活用して記録・点呼を自動化することで、負担軽減とミス防止を両立させることが可能です。
●中規模事業所(車両10〜30台)
一部業務を他部門と分担したり、副担当者を設定してダブルチェック体制を整えることで、管理品質を確保できます。担当者不在時の対応も可能になります。
●大規模事業所(車両30台以上)
運行管理・安全運転管理の業務を明確に分離し、外部委託や専任者配置による専門化を進めることが求められます。とくに点呼・アルコールチェックの正確性が重視されます。
このように、組織のリソースと業務負担を照らし合わせて、現実的かつ持続可能な管理体制を構築することが、兼任によるリスク回避の鍵となります。
自社に必要な制度と対応策を判断するための“最終チェックガイド”
制度の違いを理解したうえで、「自社がどちらの制度に該当するのか」を判断できなければ、法令違反のリスクを回避することはできません。ここでは、制度適用の可否を簡潔に見極められるチェックガイドを提示し、対応すべき具体的アクションを整理します。
対象/非対象の見落としがちな“車両タイプ別ポイント”
管理者制度の対象・非対象を分けるのは「用途」「保有台数」「車両区分」の3点です。とくに以下のような誤認が多く見られるため注意が必要です。
●自家用車(白ナンバー)でも業務利用なら対象
営業用でなくても、業務で5台以上使用していれば「安全運転管理者制度」の対象になります。家族名義の車やカーシェア車両も、業務利用実態があればカウント対象です。
●バイクも対象になる
125cc超のバイクは1台としてカウントされます。宅配・営業などでバイクを使用している事業者は、台数集計時に漏れがちなポイントです。
●レンタカー・リース車両もカウント対象
月極・長期リース契約を結んでいる車両も、業務で使用する以上、台数計上の対象となる可能性があります。契約書の内容と実態の両方で判断が必要です。
今すぐできる3つのアクション
自社の制度適用状況と対応レベルを確認したら、次に取るべきアクションは明確です。以下の3つのステップで、リスク把握から体制整備までを着実に進めていきましょう。
●制度適用チェックリストを活用する
国土交通省や警察庁の公開資料、専門サイトの診断チェックリストを活用し、自社が制度対象かどうかを確定させましょう。不明な場合は業界団体や専門家への相談も有効です。
●クラウド型ツールの無料相談を試す
業務負担軽減を図るには、まずは導入相談・トライアルから始めるのが現実的です。多くのベンダーが無料相談・デモ体験を提供しており、自社の課題とマッチするかを見極められます。
●社内体制・運用フローの見直しに着手する
制度対象である以上、体制整備は義務です。安全運転管理者・運行管理者の任命、代行者の指定、記録保存の方法など、社内運用フローを文書化し、誰が見ても運用可能な体制を目指しましょう。
まとめ

安全運転管理者と運行管理者は、制度の趣旨・適用条件・業務内容が明確に異なる独立制度です。自社がどちらの制度に該当し、どのような管理が求められるのかを正確に把握することが、法令遵守と事故防止の第一歩です。
とくに中小企業では、1人で両制度を兼任するケースが多く、業務負担や記録管理ミスのリスクが高まります。そのため、クラウド型ツールの活用や管理体制の分担・明確化が、安全性と業務効率化の両立に不可欠です。
この記事を通じて、自社の立ち位置と対応策が明確になった今、以下の実践ステップにぜひ着手してください。
- 管理者制度の適用可否をチェックリストで確認する
- 業務負担軽減のために、クラウドツールを検討・相談する
- 兼任体制を見直し、持続可能な管理フローを構築する
こうした一歩一歩の積み重ねが、法令遵守と企業の社会的信頼の確保、安全な運行体制の維持につながります。今こそ、自社の管理体制を見直す絶好のタイミングです。