2025.06.30

  • コラム

原付は本当に対象外?バイク営業・配達で求められるアルコールチェック

「配達に使っているバイクはアルコールチェックの対象になるのか?」

このような疑問を持つ事業者やドライバーは少なくありません。特に飲食業や小規模配送業では、原付バイクを使用しているケースも多く、「原付は関係ないだろう」と誤解されることがあります。

しかし、道路交通法や関連規則では、車両の種類や業務の形態によって、アルコールチェックの義務の有無が明確に区分されています。

本記事では、営業・配達で使用されるバイクがどのような場合にアルコールチェックの対象となるのかを、法令の根拠に基づいて整理します。特に「50ccを境とした対象・対象外の違い」や、「事業所の管理体制が義務に与える影響」など、実務上の判断が難しいポイントを丁寧に解説します。

また、小規模な飲食店や個人事業者でも実践しやすい対応方法も併せて紹介し、すべての読者が安全運転管理に必要な知識を正しく理解できるよう導きます。

アルコールチェック義務の全体像

安全運転管理者制度の対象となる事業者は、運転前後のアルコールチェックを実施しなければなりません。この義務は、段階的に拡大されてきました。

義務化タイミングと内容の2段階

●2022年4月施行
酒気帯びの有無を目視等(原則対面)で確認し、その内容を記録・1年間保存することが義務化されました。

●2023年12月施行
国家公安委員会が定めるアルコール検知器の使用が義務化され、検知器は常時有効に保持する必要があります。

このように、確認方法と使用機器の水準が段階的に強化されており、現在では「検知器による測定」と「記録の保存」がセットで義務化されています。

対象となる事業所と車両台数計算

車両5台以上(白ナンバー)保有
普通自動車や軽自動車などを5台以上保有する事業者は、安全運転管理者の選任義務があります。

定員11人以上の車両を1台以上保有
マイクロバスなどを1台でも保有する場合も対象です。

自動二輪は「0.5台計算」
例えば250ccの営業バイクを2台保有すれば、「1台」としてカウントされます。

50cc以下の原付バイクはカウントされない
台数計算から除外されるため、管理者制度の対象外となります。

この車両台数計算によって、対象かどうかが決まるため、原付バイクを多数保有していても対象外のままとなる場合があります。ただし、その先に例外があるため注意が必要です。

50cc以下と超える二輪車、原付の区分

配達や営業で使用されるバイクには、50cc以下の原動機付自転車から125cc以上の自動二輪までさまざまな種類があります。アルコールチェック義務との関係は、この排気量の区分に大きく影響されます。

なぜ50cc以下は対象外か?法的根拠

原動機付自転車(50cc以下)は安全運転管理者制度の対象外
道路交通法施行規則では、安全運転管理者制度の対象車両として「自動車」とされており、この定義には50cc以下の原動機付自転車が含まれていません。

点数制度上の扱いも軽車両に準ずる
行政処分の対象にもなりますが、安全運転管理制度における管理対象には含まれないため、アルコールチェックの義務は原則として発生しません。

このため、業務であっても50cc以下のバイクは法的にはチェック義務の対象外とされています。

50cc超二輪車の扱いとその理由

51cc以上の二種原動機付自転車や自動二輪車は制度の対象
これらは「自動車」に分類されるため、安全運転管理者制度の台数カウントに「0.5台」として含まれます。

対象車両例

●125ccのスクーター
●250ccのバイク

制度上の位置づけ
業務に使用され、保有台数が5台(0.5台×10台でも可)を超える場合、安全運転管理者の選任とアルコールチェック体制の整備が必要です。

このように、排気量が50ccを超えるかどうかが、対象か否かの明確な基準となります。

原付でもアルコールチェックが必要になる特殊ケース

「50cc以下の原付バイクだから関係ない」と考えている場合でも、実務運用によってはチェック義務が発生することがあります。

事業所が安全運転管理者制度「対象外でも」チェックすべき理由

安全運転の確保は法令以上の企業責任
仮に制度上対象外でも、事故を起こした際に企業としての責任が問われます。

信頼・ブランド維持の観点
顧客や取引先の信頼を維持するには、飲酒運転の未然防止が不可欠です。

対外的な評価の向上
自主的なアルコールチェック体制を整えることで、社内外への安心感を提供できます。

このように、法的義務がない場合でも、自主的にアルコールチェックを実施することで多くのメリットが得られます。

配送業務の私有原付バイクなども対象となり得る背景

私有車でも業務利用なら対象となる可能性がある
業務中に従業員が私有の原付バイクを使用している場合でも、事業所がその利用を把握・管理している場合には、事実上の「社用車」として扱われます。

管理の実態がポイント
ガソリン代の支給や配送ルートの指示がある場合、管理下の車両と見なされ、安全運転管理の対象になる可能性が出てきます。

こうした背景から、原付であっても実質的にアルコールチェック体制を整える必要が出てくるのです。

バイク営業・配達業務の対象定義と事例

アルコールチェックの必要性は、「どのような目的でバイクを使っているか」によっても左右されます。ここでは、バイクを使用する業務の定義と、具体的な事例を通して判断基準を整理します。

営業・配達業務に使うバイク=業務用の基準

業務のために使用されていること
配達先訪問、商品配送、営業活動など、業務遂行を目的とした運転であることが条件です。

稼働頻度や業務指示の有無
業務日報や走行指示などがある場合、明確に「業務用バイク」と見なされます。

事業所の管理下にあること
車両が会社名義でなくても、使用状況が会社の指示に基づいていれば管理対象と判断されます。

このように、名義や保有形態よりも「実際の使われ方」が判断の軸になります。

ケーススタディ:フードデリバリー vs 郵便配達

フードデリバリー(例:個人事業主が125ccスクーターで配達)
・50cc超なら法的にチェック義務あり
・50cc以下でも、複数台管理・使用していれば体制整備が望ましい
・GPS記録や日報と連動したチェック体制が効果的

郵便配達(例:郵便局が保有する50cc原付バイク)
・原付は安全運転管理の対象外
・ただし、郵便局では自主的なチェック体制が敷かれている場合が多い
・法令義務はないが、社会的責任から全車両対象に対応している事例もあり

これらの事例からも分かるように、車両の種類だけでなく、業務の性質や管理方法によって義務の有無が分かれます。

具体的な実務対応フロー

実際にアルコールチェックを導入する際には、「いつ」「どうやって」「何を記録するか」が明確でなければなりません。ここでは、小規模事業者でも導入可能な実務フローを紹介します。

タイミング・方法:目視+検知器の使い分け

チェックのタイミング
・運転を開始する前(始業時)
・運転を終了した後(退勤時)
一日2回の確認が基本です。

確認方法の種類
・対面による確認(原則)
・カメラ・通話・モニターによる遠隔確認(直行直帰や夜間勤務に対応)

目視確認の内容
・顔色や応答の様子に異常がないか
・呼気にアルコール臭がしないか

このように、実情に応じて柔軟な対応が可能です。

必要機材とコスト感

携帯型アルコール検知器
・数千円〜1万円程度で購入可能
・Bluetooth対応型なら記録連携も可能

事務収納・管理用のツール
・台帳(紙またはExcel)
・記録保管ボックスやロッカー

管理アプリの導入例
・クラウド型管理システムを利用すれば、検知結果の自動記録・遠隔確認が可能

小規模事業者でも、必要最低限の機材と工夫により、実効性の高いチェック体制を構築できます。

記録保存と確認体制の整備

記録項目(法令で定められた8項目)
①確認者名
②運転者名
③車両番号または識別番号
④確認日時
⑤確認方法(対面・電話等)
⑥酒気帯びの有無
⑦指示事項
⑧その他必要な事項

保存期間と方法
・最低1年間の保管が義務
・紙台帳、またはクラウドに保存しておくことが望ましい

体制整備のポイント
・管理者の選任と補助者の育成
・早朝・夜間に備えた補助者の配置や交代勤務制の構築

この体制整備により、法令遵守だけでなく、社内の安全文化の定着も期待できます。

自主的な安全対策としての価値

アルコールチェックは法令で義務付けられている事業者だけのものではありません。たとえ法的義務がなくとも、自主的に導入することで得られる安全・信頼・業務効率の効果は非常に大きなものです。

未義務でもチェックを導入すべき4つの理由

法令違反リスクの低減
自主的なアルコールチェックにより、うっかり違反や確認漏れを未然に防止できます。小さなミスが重大な違反に発展することを防ぎます。

事故の予防と安全文化の醸成
継続的な確認によって、従業員の安全意識が高まり、組織全体としての事故防止力が向上します。

対外的な信用力の向上
チェック体制を整備している事業者は、取引先や行政機関からの信頼が高まります。コンプライアンス経営の証明にもなります。

従業員の健康管理にも寄与
アルコール習慣の見直しや体調不良の早期発見にもつながり、従業員ケアの一環としても効果があります。

これらの理由から、義務の有無にかかわらず、チェック体制の整備は全事業者にとって大きな価値があります。

中小事業者向け:簡易運用モデル

1日2回の定時チェック
出勤時と退勤時にアルコール検知器で測定し、紙台帳に記録します。

簡易なチェック台帳の使用
手書き形式の記録簿を活用し、確認者・運転者・車両番号・結果を記録します。

検知器は共有でもOK
複数人で使う場合は、マウスピース交換で対応。予備も含めて常備します。

検知器の管理は一人に集中
機器の保守・交換スケジュールなどは、責任者を決めて対応します。

このような簡易運用でも、継続とルール徹底により十分な効果が見込めます。

よくある誤解とQ\&A

現場では、アルコールチェックの対象や方法について多くの誤解が見受けられます。ここでは実際に寄せられた声をもとに、Q\&A形式で整理します。

「原付なら完全に不要?」

●50cc以下の原動機付自転車は、法令上の安全運転管理者制度の対象外です。
●ただし、私有車管理や事実上の業務車両として扱う場合は、企業の判断でチェック体制を整える必要があります。

「私有バイクでも業務で使うと義務になる?」

●私有車であっても、事業所がその使用を把握・管理している場合は「業務用」と見なされます。
●安全運転管理者制度の対象車両に該当する排気量であれば、アルコールチェックの義務が発生します。

「検知器が壊れたら?」

●故障時には代替機器の使用が必要です。
●アルコール検知器は「常時有効に保持」する義務があるため、故障時にチェック不能となる体制は法令違反となります。

このように、対象範囲や運用の柔軟性について正しい理解を持つことが重要です。

まとめ

営業・配達に使用されるバイクにおいて、アルコールチェックの義務は「排気量」と「使用目的」によって明確に分かれています。

●50cc以下は対象外だが、業務内容や管理方法によっては実質的な対応が必要
●50cc超の二種原付・自動二輪は、制度上の管理対象であり、義務の履行が必要
●私有車であっても、業務で使い、管理下にあれば義務対象となり得る
●法的義務がない場合でも、安全管理と信用向上の観点から自主的な導入が推奨される

読者の皆様には、今回の内容を参考に自社の車両管理体制を見直し、必要に応じてアルコールチェック体制の整備を早急に進めていただきたいと考えます。

義務かどうかを問わず、「飲酒運転ゼロ」の安全文化づくりは、すべての企業の社会的責任です。