2025.05.20

  • コラム

【繁忙期に要注意】配送車両の増加で義務発生?知らないと怖いアルコールチェック制度

2023年12月からの道路交通法改正により、事業用に自家用車(白ナンバー)を使用する企業においても、運転前後のアルコールチェックが義務付けられました。

この制度は、5台以上の車両を保有する事業所や、定員11人以上の車両を1台以上保有する事業所が対象です。商業施設や小売業においては、繁忙期に応じて配送用車両を臨時に増やしたり、リース車や外部委託ドライバーを活用したりするケースが少なくありません。

そのような流動的な運用体制の中で、「いつ義務が発生するのか」「どの範囲までがチェック対象になるのか」という判断は、非常に難解であり、見落としによる法令違反のリスクが潜んでいます。

本記事では、アルコールチェック義務化の基本と、車両台数の変動に応じた義務発生の判断基準、商業施設配送で陥りやすいグレーゾーンの具体的な対応策を、わかりやすく解説します。繁忙期や臨時対応の際にも安心して法令対応ができるよう、実務担当者が押さえるべきポイントを整理していきます。

アルコールチェック義務化の概要と対象範囲

道路交通法施行規則の改正により、一定の条件を満たす事業者に対して、運転者の酒気帯びの有無を運転前後に確認し、その結果を記録・保存することが義務化されました。

対象となる事業所の条件

アルコールチェック義務が発生するのは、以下の条件を満たす事業所です。

車両を5台以上保有している事業所
5台には、軽自動車やミニカーも含まれます。

定員11人以上の車両を1台以上保有している事業所
マイクロバスや送迎バスなどが該当します。

この台数には、事業所に配置された車両だけでなく、他事業所からの臨時借入車や、社外の車両を業務利用する場合も含まれる可能性があります。車両の使用実態が「業務目的」と認定されれば、義務の対象となる点に注意が必要です。

自動二輪車やマイカー利用の扱い

次のような車両も、対象台数のカウントに影響します。

自動二輪車(排気量50cc超)
0.5台としてカウントされ、2台で1台分とされます。

従業員の私有車(マイカー)
業務命令により使用される場合は、「業務用車両」として扱われ、台数に加算される可能性があります。

レンタカーやリース車両
短期・長期を問わず、業務で使用していれば保有車両に加算されます。

これらの車両を含めて、5台以上となった場合、安全運転管理者の選任とアルコールチェックの実施が義務化されます。

車両台数の変動と義務発生の判断基準

商業施設の配送業務では、繁忙期や特売イベント、季節対応などに応じて車両台数が増減することが多くあります。このような場合、どのタイミングで「アルコールチェック義務が発生するのか」を正しく把握することが極めて重要です。

義務の対象となるかどうかは、あくまで「現に業務で使用している車両数」に基づいて判断されます。常時5台以上保有していなくても、一時的にでも5台を超えれば、その時点から義務が発生する可能性があります。

月単位・週単位で車両台数が変動する業態では、定期的な実態確認が必要です。

リース車両やレンタカーの取り扱い

短期間のリース車両やレンタカーであっても、以下のように業務使用の実態があれば、法的には「保有」と見なされる可能性があります。

繁忙期に配送用バンを3台追加して運用する場合
 通常3台保有していて、繁忙期に3台リースすれば6台扱いとなり、義務対象に該当します。

レンタカーで1日限りの配送を実施する場合
 1日でも業務目的で使用すれば、カウント対象となります。

リース車・レンタカーであっても、事業所の管理下にあり業務に用いられる場合、安全運転管理者による管理義務が生じる点に留意が必要です。

社外ドライバーや委託配送の対応

次のような社外ドライバーに関する運用でも、義務が発生することがあります。

外部委託業者に配送業務を委託する場合
 基本的には委託先業者の責任ですが、実態として指示・管理している場合は、発注側にも責任が及ぶ可能性があります。

日雇い契約や短期アルバイトの運転手を自社車両に乗せる場合
 使用者責任が生じるため、自社のアルコールチェック体制の下で管理が必要です。

フリーランスの個人事業主が自社の配送を担う場合
 契約内容次第で、安全運転管理者の対象になるケースがあります。

業務指示の有無や運行管理の実態によっては、「使用者」とみなされるため、アルコールチェック義務が生じる可能性があることを理解しておく必要があります。

実務における注意点とグレーゾーンの対応

車両台数やドライバーの状況が流動的な業態では、アルコールチェック義務の判断に迷うケースが多々あります。ここでは、実務上判断が難しい「グレーゾーン」の対応について具体的に解説します。

自家用車を業務利用するケース

従業員が自家用車(マイカー)で配送や営業を行う場合、その車両が安全運転管理者の管理対象となるかが問題になります。

業務命令でマイカーを使用している場合
 使用実態により「社用車として扱われる」と見なされ、対象台数に加算されます。

ガソリン代など経費精算が行われている場合
 企業側の関与が明確なため、アルコールチェック義務が生じる可能性が高まります。

本人の自主的判断で使用している場合
 業務命令が伴わなければ、対象とならない場合もありますが、判断には注意が必要です。

マイカーの業務使用は見落とされやすいため、運転日報や業務指示書の運用ルールを明確にすることが求められます。

繁忙期における臨時車両の投入

商業施設配送では、繁忙期に配送車両を急増させることが一般的です。このとき、以下のような落とし穴に注意が必要です。

一時的なリース車でも義務対象となる
 1日限りであっても、業務に使用すればカウント対象です。

日数が短いからと記録や点呼を省略すると違反
 義務は「台数」により発生するため、期間の長短は関係ありません。

台数確認を怠り、無自覚に義務違反となるケース
 台数確認の責任者を明確にし、日次または週次で実態をチェックする体制を整えましょう。

繁忙期の運用には「事前のスケジュール設計と台数管理」が欠かせません。

外部委託ドライバーの活用

外部の個人事業主や委託業者のドライバーを活用する際も、義務の有無は契約や実態によって異なります。

指示系統や運行管理を自社が行っている場合
 「実質的な使用者」とされ、安全運転管理者の対象となることがあります。

単なる委託で指揮命令がない場合
 原則として委託先の管理下にあるため、自社には義務が及びません。

同一の配送を自社車両と委託車両が混在する場合
 管理の一貫性を保つため、委託先との役割分担を文書で明確にしておくことが望まれます。

グレーケースは、契約内容と現場の運用実態を総合的に見て判断し、必要に応じて専門家への相談も視野に入れましょう。

義務発生の判断フレームと対応策

流動的な車両管理を行う事業者にとって、アルコールチェック義務の「判断基準を見える化」することが重要です。ここでは、義務発生の有無を判断するための具体的なフレームと、実務で役立つ対応策を紹介します。

義務発生チェックリストの作成

自社の業態や運用実態に即した「義務発生チェックリスト」を作成することで、判断のブレを防ぐことができます。

●現在保有している業務車両の台数
●一時的に運用しているリース車やレンタカーの台数
●自家用車の業務使用者の有無と人数
●車両の使用目的が業務指示に基づいているかどうか
●外部委託ドライバーに対する指示系統の有無
●年間で車両数が増える月・週・日があるかどうか

これらの項目を月次で点検する体制を整えることで、リスクを未然に察知することが可能になります。

フローチャートによる判断支援

義務発生の可否を迅速に判断するには、フローチャートによる視覚的整理が有効です。以下のようなステップで判断します。

●ステップ1:事業用として運転する車両があるか?
●ステップ2:該当車両が5台以上、または定員11人以上の車両が1台以上あるか?
●ステップ3:上記にリース車・マイカー・委託車両を含めた場合、条件を満たすか?
●ステップ4:該当する場合、安全運転管理者の選任とアルコールチェック体制の構築が必要

このようなチャートを社内マニュアルや研修資料に盛り込むことで、誰でも正しく判断できるようになります。

年間スケジュールの見直し

配送業務の特性に応じて、年間スケジュールにおける繁忙期やイベント時の車両数を事前に見直すことも不可欠です。

●毎年決まって車両が増える時期(年末年始、セール時期など)を事前に把握
●車両増加が見込まれる期間に合わせて、管理体制を強化
●アルコール検知器の数、記録簿の用意、対面確認体制の調整を事前に実施

このように、スケジュールに基づいた対応策を予め講じておくことで、法令違反を防止し、平時からリスク管理を徹底できます。

まとめ

商業施設の配送業務においては、車両台数や運転者の管理が日々変動するため、アルコールチェック義務への対応には高度な実務判断が求められます。繁忙期や臨時対応における「見落とし」は、法令違反や社会的信用の失墜につながりかねません。

本記事で解説してきたポイントを改めて整理します。

アルコールチェック義務は「車両台数」によって発生
5台以上の自動車、または定員11人以上の車両を1台以上保有する事業所が対象です。

リース車・レンタカー・自家用車の業務使用も対象になる可能性がある
業務使用の実態がある車両はすべて台数にカウントされます。

委託ドライバーや外部車両も管理対象になり得る
運行指示や管理実態が自社にある場合、安全運転管理者の責任が生じるケースがあります。

判断に迷うグレーケースには事前対応が不可欠
チェックリストやフローチャート、年間スケジュールの見直しなど、予防的な管理が重要です。

商業施設配送という業態に特有の「車両管理の複雑さ」に対応するには、形式的な点呼管理だけでは不十分です。制度の趣旨を理解し、実務に即した柔軟な対応体制を整えることで、安全と法令順守を両立することができます。

今後の対応においては、現場レベルの気付きや業務実態の変化にも目を配りながら、持続的な管理体制の構築を進めていきましょう。早期の準備と判断基準の明確化が、組織全体の信頼性とリスク回避につながります。