
2025.05.09
- コラム
労災・事故・賠償…農業法人のアルコール対策が急務
農業法人においても、アルコールチェックの義務化が現実の問題となっています。軽トラックや農機運搬車などの白ナンバー車両を業務で使用する場合、道路交通法や労働安全衛生法の規定により、アルコールチェックが求められるケースが増えています。
これまで「農業は対象外」と考えられてきた背景がありますが、法改正によりその認識は変わりつつあります。本記事では、農業法人が直面するアルコールチェック義務の概要と、その対応策について詳しく解説します。
農業法人が対象となるアルコールチェック義務の概要
農業法人がアルコールチェックの義務対象となる背景には、道路交通法の改正があります。2022年4月の改正により、一定台数以上の白ナンバー車両を業務で使用する事業所にも、アルコールチェックの義務が課されるようになりました。
白ナンバー車両でも義務対象となるケース
以下の条件を満たす事業所は、安全運転管理者の選任とアルコールチェックの実施が義務付けられています。
●乗車定員11人以上の自動車を1台以上保有している場合
大型車両を業務で使用する場合、1台でも対象となります。
●その他の自動車を5台以上保有している場合
軽トラックや農機運搬車など、白ナンバーの車両を5台以上使用している場合も対象です。注:自動二輪車(原動機付自転車を除く)は0.5台として計算されます。
これらの条件に該当する場合、業務で使用する車両の運転者に対して、運転前後のアルコールチェックを実施し、その記録を1年間保存することが求められます。
農道と公道の違いによる適用範囲の判断
農業で使用される道路には「農道」と呼ばれるものがありますが、これが「公道」に該当するかどうかで、アルコールチェックの義務が変わることがあります。
●農道が公道に該当する場合
一般の車両も通行可能な農道は、公道とみなされ、道路交通法の適用対象となります。この場合、農業用車両であってもアルコールチェックの義務が発生します。
●農道が私有地に該当する場合
農業法人の私有地内のみで使用される農道は、公道とはみなされず、アルコールチェックの義務は発生しません。ただし、私有地内であっても、事故が発生した場合の責任は免れません。
農道が公道に該当するかどうかの判断は、道路の管理者や地域の条例によって異なるため、事前に確認が必要です。
義務違反がもたらすリスクと経営への影響
アルコールチェックの義務を怠ることは、農業法人にとって重大なリスクを伴います。法的な罰則だけでなく、経済的・社会的な影響も考慮する必要があります。
行政処分・保険不支給・刑事責任の可能性
●行政処分
アルコールチェックを実施しなかった場合、安全運転管理者の業務違反とみなされ、公安委員会から是正措置命令が発令されることがあります。これに従わない場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
●保険不支給
アルコールチェックを怠った状態で事故が発生した場合、保険会社から保険金の支払いを拒否されることがあります。これは、義務違反が原因で事故が発生したと判断されるためです。
●刑事責任
飲酒運転による事故が発生した場合、運転者だけでなく、管理者や法人の代表者も刑事責任を問われる可能性があります。過去には、業務上過失致死傷罪で起訴された事例もあります。
労災認定や損害賠償などの経営リスク
●労災認定
アルコールチェックを怠った結果、従業員が事故を起こした場合、労働災害として認定される可能性があります。労災保険の適用や企業のイメージダウンが懸念されます。
●損害賠償
事故の被害者から損害賠償を請求されるケースもあります。アルコールチェックを実施していなかったことが原因とされる場合、賠償額が高額になる可能性があります。
信用失墜と地域内評価への影響
●地域社会からの信頼喪失
農業法人は地域社会とのつながりが強いため、事故や義務違反が発覚すると、地域からの信頼を失う可能性があります。取引先や顧客からの信用も低下する恐れがあります。
●従業員の士気低下
安全管理が不十分な職場では、従業員の士気が低下し、離職率の増加や人材確保の難航につながることがあります。
農業法人も対象!誤解を払拭し対応を急ぐべき理由
農業法人においても、アルコールチェックの義務が適用されることを理解し、早急に対応を進める必要があります。
適用対象が拡大している現実
●法改正による対象拡大
2022年4月の道路交通法改正により、白ナンバー車両を一定台数以上保有する事業所もアルコールチェックの義務対象となりました。農業法人も例外ではなくなっています。
●アルコール検知器の使用義務化
2023年12月からは、アルコール検知器を使用した酒気帯び確認が義務付けられています。目視確認だけでなく、機器を用いたチェックが必要となります。
「私有地・農業作業だから除外される」は誤解
●業務使用実態による判断
車両が私有地内で使用されていても、業務として使用されている場合は、アルコールチェックの義務が発生する可能性があります。農道が公道とみなされる場合は注意が必要です。
●農道の公道該当性
一般車両が通行可能な農道は、公道とみなされ、道路交通法の適用対象となります。この場合、アルコールチェックの義務が発生します。
地域・業界内の信頼を守る経営判断としての対応
●法令順守による信頼維持
アルコールチェックの義務を遵守することで、地域社会や取引先からの信頼を維持することができます。これは、農業法人の持続的な経営にとって重要な要素です。
●安全文化の醸成
アルコールチェックの実施は、安全意識の向上につながります。従業員の意識改革を促し、事故の未然防止に寄与します。
農業法人に適したアルコールチェック対策の進め方
農業法人がアルコールチェックの義務に対応するためには、段階的な対策が効果的です。
ステップ1:簡易なチェック体制を今すぐ整備
●市販のアルコール検知器の導入
手軽に入手可能なアルコール検知器を使用し、運転前後のチェックを実施します。初期投資を抑えつつ、義務に対応することができます。
●手書きの日報や点呼記録の活用
チェック結果を手書きで記録し、1年間保存することで、法令遵守を実現します。小規模な法人にとって、コストを抑えた対応が可能です。
ステップ2:中長期での本格導入を計画する
●クラウド型管理システムの導入
アルコールチェックの結果をデジタルで管理し、効率的な運用を実現します。遠隔地でのチェックや記録の一元管理が可能となります。
●運用ルールの整備
アルコールチェックの手順や記録方法を明文化し、社内で共有します。従業員全体の意識統一が図れます。
ステップ3:従業員の意識改革と社内文化の形成
●朝礼での確認習慣の定着
毎朝の始業前にアルコールチェックの確認を習慣化することで、従業員の意識向上につながります。「今日も無事故で行こう」といった一言を添えることで、安全意識を強く印象付けることができます。
●教育研修の実施
アルコールチェックの目的や、違反がもたらす影響について定期的な教育を行います。新人や季節雇用者にもわかりやすく伝えることが重要です。
●ポスターや掲示物による啓発
社内にアルコールチェックの重要性を示すポスターやチェックリストを掲示します。視覚的に訴えることで、継続的な注意喚起が可能になります。
●チェック結果のフィードバックと対話の促進
異常値が出た場合にはすぐに管理者が対応し、該当者と丁寧な対話を行う仕組みを作ります。ミスを責めるのではなく、改善のための支援という姿勢が職場の信頼を育てます。
●表彰制度の導入
安全運転を継続している従業員を定期的に表彰することで、モチベーションを高めることができます。安全意識を組織全体で共有することが文化として根付く第一歩になります。
まとめ

農業法人においても、軽トラックや農機運搬車などの白ナンバー車両を業務で使用する場合、アルコールチェックの義務が適用される現実を直視する必要があります。道路交通法や労働安全衛生法の改正により、農業という業種が特例扱いされる時代ではなくなりました。
義務違反による行政処分や保険不支給、刑事責任にまで発展する可能性は、法人経営にとって深刻なリスクです。地域社会や取引先との信頼関係が損なわれることで、事業の継続そのものが危ぶまれるケースもあります。
一方で、アルコールチェック体制は段階的に導入することが可能であり、初期は市販機器や手書き記録を用いた低コストな対策から始めることができます。将来的には、クラウド型のシステムや社内教育を通じて、法令順守と安全文化の定着を図ることが重要です。
「農業だから関係ない」という認識はすでに過去のものとなりつつあります。今後の安全管理においては、農業法人も社会的責任を果たす立場であることを自覚し、アルコールチェック体制の整備を急ぐことが、持続可能な経営への第一歩となるでしょう。