
2025.04.30
- コラム
教育機関におけるアルコールチェック義務、子どもを守るため対策
教育機関における送迎業務の安全性確保が、社会的な関心を集めています。児童や生徒の安全を守るためには、運転者の状態管理が重要です。近年、アルコールチェックの義務化が進められ、教育機関もその対象となっています。
2022年4月に道路交通法が改正され、一定の条件を満たす事業所に対してアルコールチェックの実施が義務付けられました。2023年12月からは、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認が必須となり、教育機関も対応を求められています。
この記事では、教育機関が遵守すべきアルコールチェックの義務内容や、怠った場合のリスクについて詳しく解説します。学習塾や私立学校、福祉系教育施設の運営者が、安全管理体制の構築に向けて必要な知識を得ることを目的としています。
対象となる教育機関とアルコールチェック義務の適用範囲
教育機関における送迎業務では、児童や生徒の安全を守るため、運転者の状態管理が重要です。一定の条件を満たす教育機関では、アルコールチェックの実施が義務付けられています。
学習塾・進学塾
スクールバスや塾バスを運行する学習塾や進学塾では、安全運転管理者の選任とアルコールチェックの実施が求められます。
私立幼稚園・私立小学校・中学校・高等学校
教職員が運転する送迎車両を保有する私立学校では、安全運転管理者の選任とアルコールチェックの実施が必要です。
放課後等デイサービス・児童発達支援施設
障害を持つ子どもを送迎する福祉系教育施設も、アルコールチェックの義務対象となります。職員の飲酒チェック体制を整備し、利用者の安全を確保することが求められます。
インターナショナルスクール・通信制高校
通学支援として送迎サービスを提供しているインターナショナルスクールや通信制高校も、アルコールチェックの義務対象となります。
地域密着型の小規模教室・習い事スクール
少人数運営の小規模教室や習い事スクールでも、送迎車を使用していればアルコールチェックの義務対象となるケースがあります。
安全運転管理者の選任要件と義務
以下の条件を満たす事業所では、安全運転管理者の選任が義務付けられています。
●自動車を5台以上保有している事業所
●乗車定員が11人以上の自動車を1台以上保有している事業所
安全運転管理者は運転者の酒気帯びの有無を確認し、その記録を1年間保存する義務があります。
アルコールチェックを怠った場合のリスクと影響
教育機関がアルコールチェックを怠ることは重大な事故や社会的信用の失墜など、多方面にわたるリスクを伴います。
飲酒運転による重大事故の発生リスク
アルコールチェックを実施しない場合、運転者の酒気帯び運転を見逃す可能性が高まり、重大な交通事故を引き起こすリスクが増大します。
●学習塾の送迎バスが通学路で児童と接触
塾バスの運転者が酒気を帯びた状態で運転し通学路を横断中の児童と接触。頭部にけがを負わせる事故が発生。アルコールチェックを怠ったことが原因とされ、塾の運営責任が問われるなど。
●私立小学校の送迎中に赤信号を無視して衝突事故
教職員が軽度の酒気帯び状態で送迎車を運転し、交差点で赤信号を無視して他車と衝突。複数の児童が負傷し、学校は保護者からの信頼を失うなど。
●放課後等デイサービス送迎中に横断歩道で接触事故
職員が酒気を帯びた状態で送迎車を運転して下校中の児童と横断歩道上で接触。児童が重傷を負い、行政からの指導を受け運営停止に追い込まれるなど。
保護者からの信頼失墜と風評被害
安全管理の不備が明るみに出ると、保護者からの信頼を失い、施設の評判に深刻な影響を及ぼします。
●保護者の不安と不信感
アルコールチェックを怠った結果、事故が発生した場合、保護者は子どもの安全に対する不安を抱き、施設への信頼を失います。
●口コミやSNSでの拡散
事故や不祥事は口コミやSNSを通じて瞬く間に拡散し施設の評判を著しく低下させます。
●入園・入学希望者の減少
信頼を失った施設には入園・入学希望者が集まらなくなり経営に大きな打撃を与えます。
行政指導や事業停止の可能性
アルコールチェックの義務を怠ることは法令違反と見なされ、行政からの指導や事業停止のリスクを伴います。
●是正措置命令の発令
安全運転管理者の業務違反として公安委員会から是正措置命令が発令される可能性があります。
●罰金の科せられるリスク
是正措置命令に従わなかった場合50万円以下の罰金が科されることがあります。
●事業停止や営業許可の取り消し
重大な違反があった場合、事業停止や営業許可の取り消しといった厳しい行政処分が科される可能性もあります。
損害賠償請求と法的責任の発生
事故が発生した場合、施設や運営者には損害賠償請求や法的責任が発生します。
●運行供用者責任
自動車の運行・管理によって利益を得ている企業は、交通事故により第三者に損害を与えた場合、従業員と連帯して損害賠償責任を負います。
●使用者責任
事業のために雇用している従業員が交通事故を起こした場合、企業も従業員と連帯して損害賠償責任を負います。
●刑事責任の追及
飲酒運転による事故では、運転者だけでなく、車両を提供した事業者や管理者にも刑事責任が及ぶ可能性があります。
教育機関がアルコールチェックを怠ることは、児童・生徒の安全を脅かすだけでなく施設の存続にも関わる重大なリスクを伴います。安全管理体制の構築と法令遵守の徹底が求められます。
小規模塾や地域密着型スクールでも例外ではない理由
アルコールチェック義務は、大規模な教育機関だけでなく小規模な学習塾や地域密着型のスクールにも適用されます。送迎車両の有無や使用頻度に関係なく、安全運転管理者の選任基準を満たす場合、法的義務が発生するためです。
法令上の適用範囲とその解釈
道路交通法施行規則により、以下の条件を満たす事業所には安全運転管理者の選任が義務付けられています。
●乗車定員11人以上の自動車を1台以上保有している場合
大型の送迎バスを運行している場合、1台でも該当します。
●その他の自動車を5台以上保有している場合
普通車や軽自動車を含め、5台以上保有している場合も対象となります。
少人数制の塾やスクールであっても、送迎車両を保有・運行している場合は、アルコールチェックの義務が生じます。
実際の違反事例とその教訓
アルコールチェックを怠ったことで重大な事故や社会的信用の喪失につながった事例は、教育現場にとって重要な警鐘となります。
事例1福島県の県立高校講師による飲酒運転事故(2025年3月)
県立高校の20代男性講師が職場の送別会で飲酒後に私用車を運転して単独事故を起こしました。呼気からアルコールが検出され、道路交通法違反(酒気帯び運転)で書類送検されました。
県教育委員会は教職員に対する綱紀粛正を徹底し、再発防止に向けた取り組みを強化する方針を発表しました。
事例②長野県飯田市:中学校教員による酒気帯び運転事故(2024年11月)
2024年11月23日、飯田市内の市立中学校に勤務する教員が酒気帯び状態で車を運転し、交通事故を起こしました。警察による検査で基準値を超えるアルコールが検出され、教員は酒気帯び運転で現行犯逮捕されました。
事故を受けて飯田市教育委員会は教職員に対する服務規律の徹底と再発防止策の強化を発表しました。地域の教育環境に対する信頼回復のため、指導体制の見直しも進められています。
事例③栃木県那須塩原市:小学校講師による酒気帯び運転事故(2021年7月)
2021年7月10日、那須塩原市立大原間小学校の男性講師が同僚教員2人と酒を飲んだ後に運転し、他の車に衝突する事故を起こしました。講師はビールとハイボールを計6杯飲酒していたと供述し、酒気帯び運転が確認されました。
講師本人と同乗していた2人の教職員はいずれも停職6カ月の懲戒処分を受け、その後依願退職。教育委員会は職員への再発防止研修を徹底する方針を発表しました。
事例④香川県:教員による酒気帯び運転での人身事故(2024年11月)
2024年11月14日、香川県内で酒気帯び運転により人身事故を起こした教員が逮捕され、県教育委員会より懲戒処分を受けました。この事故では被害者に軽傷が発生しています。
県教育委員会は、教職員の服務規律の更なる徹底と飲酒運転根絶に向けた指導強化を表明しました。地域メディアでも報道され、教員に対する信頼低下が指摘されました。
保護者の信頼を得るための安全対策としての意義
教育機関がアルコールチェックを徹底することは保護者からの信頼を得るためにも重要です。安全対策の実施は施設の信頼性を高め、安心して子どもを預けられる環境づくりにつながります。
安全対策が保護者に与える安心感
●透明性のある運営
アルコールチェックの実施や記録の保存を明確にすることで、保護者に対して透明性のある運営を示すことができます。
●事故防止への取り組み
飲酒運転のリスクを排除する取り組みは、子どもの安全を最優先に考える姿勢として保護者から高く評価されます。
●信頼関係の構築
安全対策を徹底することで保護者との信頼関係を築き、長期的な関係維持につながります。
透明性のある情報公開とコミュニケーション
●定期的な報告
アルコールチェックの実施状況や安全対策の取り組みを定期的に保護者へ報告することで、安心感を提供します。
●説明会や懇談会の開催
安全対策に関する説明会や懇談会を開催し、保護者からの意見や要望を取り入れることで双方向のコミュニケーションを促進します。
●緊急時の対応体制の共有
万が一の事故やトラブル時の対応体制を事前に共有することで保護者の不安を軽減し、信頼を深めます。
教育機関が積極的に安全対策を講じて保護者との信頼関係を築くことは、子どもたちの安心・安全な学びの場を提供するために欠かせません。
安全管理体制構築のための具体的なステップ
教育機関が送迎時の安全を確保するためには、明確な安全管理体制の構築が不可欠です。
社内規程の整備とマニュアルの作成
アルコールチェックの実施手順や責任者の役割を明文化した社内規程を作成します。
●対象者の明確化
アルコールチェックの対象となる職員(送迎車両を運転する教職員や職員など)を明確にし、全員への周知を行います。
●点呼・記録の運用フローを標準化
実施時間、確認方法(対面または非対面)、記録保存の手順などを具体的に定めマニュアル化することで属人化を防ぎます。
●緊急時の対応策も記載
酒気帯びが疑われた場合の連絡先、代替運転者の確保方法なども記載することで対応の遅れを防ぎます。
クラウド型アルコールチェックシステムの導入検討
紙ベースの記録ではヒューマンエラーや管理の手間が発生しやすいため、デジタル化による効率化が推奨されます。
●自動記録・遠隔管理のメリット
検知器とスマートフォンアプリを連動させ測定結果をクラウド上に自動保存。管理者は外出先からでもリアルタイムで確認できます。
●導入時の注意点とコスト感
検知器の対応機種やアプリの互換性、クラウドサービスの月額利用料(一般的に1台あたり1,000〜3,000円程度)がポイントです。既存業務との連携が可能かも重要な判断基準となります。
スタッフ教育と意識改革の進め方
制度を整えても運用するスタッフの理解と意識が伴わなければ形骸化してしまいます。
●定期的な研修の実施
飲酒運転のリスクやアルコールチェックの重要性を再認識させるための研修を年1〜2回実施します。
●チェックリストによる自己点検
職員自身が日常的に点検できるように簡単なチェックリストを配布し、セルフモニタリングを促します。
定期的な点検と改善のサイクル
制度の定着と効果の最大化には、PDCAサイクル(計画・実行・確認・改善)による継続的な見直しが欠かせません。
●内部監査の実施
半年に1回程度、アルコールチェックの実施状況を第三者視点で点検。改善点を洗い出します。
●フィードバックの反映
現場の声や保護者からの意見を集約し、規程や運用に柔軟に反映させることが、制度の成熟につながります。
このように、教育機関が段階的に安全管理体制を整備することで、児童・生徒の安全を守り、保護者や地域社会からの信頼を獲得することが可能になります。
まとめ

教育機関が担う最も重要な使命は、子どもたちの命と安全を守ることです。送迎業務においても例外ではなく、運転者の状態管理を徹底することは教育関係者に課された社会的責任の一つです。
法令に基づいたアルコールチェックの具体的な対応方法から、怠った場合に起こり得るリスク、そして実際に発生した事故の事例からリスクの深刻さを明らかにしました。小規模施設であっても送迎車両を運行する限り、例外なく対策が求められることを忘れてはなりません。
安全管理体制の構築と継続的な改善は「選択肢」ではなく「責務」といえます。子どもたちが安心して通える環境は、教育機関の誠実な安全対策によって支えられています。
アルコールチェックをはじめとする管理体制の強化を通じて、保護者の信頼を確かなものとし、健やかな成長を支える教育環境を築いていきましょう。