2024.12.25
- コラム
安全運転管理者と運行管理者、どちらが必要?違いを理解しよう
企業や運輸業界では、安全運行の確保が事業運営の基本であり、社会的責任の一部でもあります。その中で「安全運転管理者」と「運行管理者」は、それぞれ異なる役割を担いながら、交通安全の維持に大きく貢献しています。
しかし、この2つの役職の違いを正確に理解している人は少なく、混同されることも珍しくありません。本記事では、両者の役割や専任条件、管理対象となる車両の違いを含めて比較し、どのように企業での安全管理体制を整備すべきかを解説します。自社に適した役職を選定し、法令遵守と安全な事業運営を実現するための基盤作りに役立てていただければと思います。
安全運転管理者とは?
安全運転管理者は、一定規模以上の事業者に配置が義務付けられる役職です。主に社内の交通安全を推進し、従業員が安全に運転業務を行えるよう支援する役割を担っています。
安全運転管理者の役割
安全運転管理者の役割は多岐にわたり、以下のような具体的な業務が含まれます。
●運転者の教育や指導
安全運転管理者は、従業員が安全意識を高めるための教育や指導を行います。具体的には、安全運転講習の実施や、交通事故防止のための勉強会を企画することが一般的です。
●車両管理
社用車の点検や整備状況を確認し、適切な管理を行います。車両の使用記録やメンテナンス記録を保持し、運行時の安全性を確保することが求められます。
●点検記録の作成
日々の車両点検を記録に残し、法的要件を満たすための文書管理を行います。この記録は、事故やトラブルが発生した際の重要な証拠にもなります。
これらの活動を通じて、社内全体の交通安全レベルを向上させることが目的です。
管理対象となる車両
安全運転管理者が管理する対象車両は、主に社内で使用される事業用車両です。ただし、道路交通法施行規則では、定員11人以上の車両が対象に含まれる場合もあり、企業が保有する車両の特性に応じて異なる管理体制が必要です。
具体的には、以下の車両が対象となります。
●乗用車や商用車など、業務遂行のために使用される一般車両。
●配送用の軽貨物車や小型トラック。
これらは、企業内で従業員が運転する車両を中心とし、外部向け輸送業務には関与しません。安全運転管理者は、社内での事故防止や運行安全を確保する責任を持っています。
専任条件と資格要件
安全運転管理者の配置は、事業用車両の保有台数に応じて義務付けられています。その条件と資格要件について詳しく見ていきましょう。
●配置義務の基準
一定の条件を満たす事業用車両が5台以上(または2台以上で一定の条件に該当する場合)を保有している企業は、安全運転管理者を選任しなければなりません。
●資格要件
法令上、特定の試験に合格する必要はありませんが、運転管理に関する十分な知識と経験が求められます。これには、従業員の交通安全教育や車両管理業務の実務経験が含まれます。
安全運転管理者は、企業内での交通安全の推進者としての役割を果たします。そのため、責任感や組織内での調整力が重要な資質とされます。
運行管理者とは?
運行管理者は、主に運輸業者に配置が義務付けられる役職で、外部輸送業務の安全を確保する責任を負っています。この役職は、運行計画の作成から事故防止策の実施まで、業務範囲が広いことが特徴です。
運行管理者の役割
運行管理者が担当する主な業務には、以下のような内容があります。
●運行計画の作成
配送ルートや運行スケジュールを設計し、効率的かつ安全な輸送を実現します。道路状況や気象条件を考慮し、リスクを最小限に抑えた計画を立案することが求められます。
●点呼業務
ドライバーの健康状態や車両の安全性を確認するため、出発前と帰着後の点呼を行います。この際、飲酒の有無や疲労の状態も確認し、必要に応じて運行を見合わせる判断を下します。
●運転時間や休憩時間の管理
運転者の過労を防ぐために、法定労働時間を遵守し、適切な休憩を確保します。事故のリスクを軽減し、ドライバーの健康を守ることができます。
これらの業務を通じて、運行管理者は輸送業務の「安全保障」を担っています。
管理対象となる車両
運行管理者が管理する車両は、主に運輸業者が使用する事業用車両です。
具体的には以下のような車両が含まれます。
●貨物輸送用の中型・大型トラック。
●バスやタクシーなどの旅客輸送車両。
これらの車両は外部向けの輸送サービスに使用されるため、運行管理者が外部の安全基準や法令に従って管理することが求められます。
専任条件と資格要件
運行管理者の選任には、厳格な資格要件が設けられています。以下に具体的な条件を説明します。
●国土交通省の試験に合格
運行管理者として活動するためには、国土交通省が実施する運行管理者試験に合格する必要があります。試験内容には法令、運行管理技術、リスク管理が含まれ、資格取得後も継続的な講習を受ける義務があります。
●実務経験による資格取得
試験に合格しなくても、一定の実務経験を有する場合には、資格を取得することができます。運行管理補助者として3年以上の経験がある場合、試験免除で資格を取得できます。
●配置義務の基準
運行管理者は、事業用車両が一定台数以上(貨物自動車運送業の場合、5台以上の緑ナンバー車両)を保有する運輸業者に対して義務付けられています。ただし、貸切バス事業者やタクシー事業者などでは異なる基準が適用される場合があります。企業規模や事業内容に応じて、必要な人数が異なる場合があります。
運行管理者は、外部輸送業務の安全を直接的に管理するポジションであり、高い専門性と責任感が求められます。
安全運転管理者と運行管理者の違い
安全運転管理者と運行管理者は、いずれも交通安全に関与する役職ですが、その役割や対象範囲には明確な違いがあります。以下で業務内容や管理車両、専任条件の違いについて詳しく比較します。
業務内容の違い
●安全運転管理者
安全運転管理者は、企業内での交通安全を維持することが主な目的です。具体的には、運転記録証明書の取得や定期的な講習参加を推進するなど、交通安全に関する法的な義務を果たす役割も担います。運転者に対する安全教育や車両管理を通じて、社内での事故やトラブルを未然に防ぐ役割を担います。そのため、活動範囲は「社内」に限定されます。
●運行管理者
運行管理者の業務は、外部向けの輸送サービスに重点を置いています。運行計画の策定や点呼業務、運転時間の管理を通じて、輸送業務全体の安全を確保します。そのため、業務範囲は「外部輸送」に及び、より広範な視点で安全を管理します。
管理対象となる車両の違い
●安全運転管理者
安全運転管理者が管理する車両は、主に社内業務で使用される乗用車や軽貨物車、小型トラックです。これらの車両は従業員が業務遂行のために使用するもので、外部輸送には直接関与しません。
●運行管理者
運行管理者が管理する車両は、中型・大型トラックやバス、タクシーなど、外部向けの輸送サービスに使用される車両です。これらは顧客の貨物や旅客を輸送する役割を担うため、運行管理者が外部基準を満たす形で管理する必要があります。
専任条件と必要資格の違い
●安全運転管理者
安全運転管理者の選任条件は、事業用車両の保有台数に基づいています。一定数以上の車両を保有する企業には選任が義務付けられますが、資格要件として特定の試験合格は不要です。実務経験や交通安全に関する知識が重要視されます。
●運行管理者
運行管理者を選任するには、試験合格または特定の実務経験に基づく認定が必要です。国土交通省が実施する試験では、法令や運行管理の専門知識が問われます。運行管理者の選任義務は、運輸業者や事業規模に応じて発生します。
これらの違いを理解することで、自社に必要な役職を適切に選定するための基準が明確になります。
自社に必要な役職を検討するポイント
自社が安全運転管理者や運行管理者をどのように導入すべきかを検討する際には、事業規模や業種、保有車両の種類などを考慮する必要があります。以下に具体的なポイントを挙げて解説します。
事業規模と業種による選定基準
●安全運転管理者が必要な場合
社内での業務に事業用車両を多く使用する企業(例:営業車を持つ企業やサービス業)には、安全運転管理者の選任が求められます。従業員の運転に関する教育や指導が重要となる場合に有効です。
●運行管理者が必要な場合
外部輸送業務を行う企業(例:物流業者や旅客輸送業者)には、運行管理者の選任が必須です。これらの企業では、輸送計画や点呼業務が安全な運行の鍵となるため、運行管理者の配置が法的に求められます。
導入時の考慮点
●法的要件の確認
自社が対象となる法律や規制を確認し、必要な役職を選任することが重要です。道路交通法や国土交通省の規定に基づき、配置義務の有無を判断します。
●適切な人材の選定
選任する人材が役職に求められる条件を満たしているか確認します。安全運転管理者には交通安全に関する知識が、運行管理者には試験合格や実務経験が求められます。
●管理体制の整備
役職ごとの業務内容を理解し、社内での役割分担を明確化します。車両や運行状況を一元管理する仕組みを導入することで、両者の連携がスムーズになります。
自社の運行形態や業務内容を総合的に評価し、適切な役職を選任することが、交通安全と法令遵守の両立に繋がります。
まとめ
安全運転管理者と運行管理者は、いずれも交通安全の維持において重要な役割を果たしますが、その業務内容や対象範囲、必要資格には明確な違いがあります。
安全運転管理者は、社内の交通安全を支える役職であり、運行管理者は外部輸送業務の安全確保を担います。それぞれの役割は、企業の安全管理体制の核となる重要な要素です。自社においてどちらの役職が求められるのかを正確に把握し、適切な配置を行うことが、従業員の安全、法令遵守、企業価値の向上に直結します。両者を連携させる仕組みを導入することで、より高度な安全管理体制を構築することが可能です。
最後に、自社に必要な役職を見極める際には、法令を確認するだけでなく、組織全体の安全管理体制を見直し、さらなる改善を図る視点を持つことが重要です。