2025.12.24

  • コラム

病院の送迎車・訪問看護車両も義務対象!医療業界の点呼対応とは

2023年12月から、白ナンバー事業者に対するアルコールチェック義務化が完全施行されました。一般企業の話だと思われがちですが、実は多くの医療機関もこの規制の対象に含まれています。

もし「当院は運送業ではないから関係ない」と考えているなら、今すぐに認識を改める必要があります。道路交通法は業種を問わず、一定台数の車両を使用するすべての事業者を対象としているからです。

知らずに法令違反の状態を続けていれば、万が一の事故の際に社会的な信用を失うだけでなく、重い法的責任を問われることになります。患者さんの命を預かる医療機関として、安全管理体制の不備は許されません。

この記事では、医療現場の実情に合わせたアルコールチェックの運用ルールや、直行直帰が多い訪問看護ステーションでの対応策について詳しく解説します。法令を遵守しながら、現場の負担を最小限に抑える方法を一緒に確認していきましょう。

医療機関も対象!アルコールチェック義務化の要件と対象範囲

結論から言えば、送迎車や訪問車を保有する多くの医療法人が、今回の義務化の対象となります。まずは自院が対象となるかどうかを、正確に把握することがスタートラインです。

白ナンバー義務化のスケジュールと現状

2023年12月1日より、安全運転管理者を選任している事業所に対して、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認が義務付けられました。これまでは目視による確認でも認められていましたが、現在は検知器の使用が必須となっています。

この改正道路交通法施行規則により、運転前後のアルコールチェックは法律上の絶対的な義務となりました。「検知器が壊れていた」「忙しくて忘れた」という言い訳は一切通用しません。

過去の運用方法のまま、目視や自己申告だけで済ませている場合は、直ちに運用を見直す必要があります。法令違反の状態を放置することは、法人全体のリスク管理において致命的な欠陥となり得ます。

【判定リスト】安全運転管理者の選任が必要な基準

アルコールチェック義務化の対象となるのは、「安全運転管理者」の選任が必要な事業所です。具体的には、以下のいずれかの条件を満たす場合に選任義務が発生します。

●乗車定員11人以上の車両を1台以上使用している
乗車定員が11人以上のマイクロバスなどを1台でも保有していれば対象です。透析患者さんの送迎バスなどがこれに該当するケースが多く見られます。

●白ナンバーの車両を5台以上使用している
車種や定員に関わらず、自動車検査証の用途が「自家用」となっている車両を合計5台以上使用している場合に対象となります。一般企業だけでなく、医療機関の多くがこの条件に該当します。

車両台数のカウントには注意が必要です。法人名義の車両だけでなく、リース契約の車両や、業務に常時使用する職員の持ち込み車両(マイカー借り上げ)も含まれる場合があります。

また、50ccを超える自動二輪車(バイク)は、1台を0.5台として換算します。訪問看護ステーションなどで原付バイクを多用している場合は、これらも計算に含めて台数を確認してください。

医療・介護特有の対象車両例

医療や介護の現場では、さまざまな用途で車両が使用されています。一見すると業務車両に見えないような車でも、台数カウントの対象となるケースが多々あります。

●患者送迎用のマイクロバスやワゴン車
透析クリニックやデイケアセンターなどで、患者さんの自宅と施設を送迎するために使用される車両です。定員11人以上のバスであれば1台で、ハイエースなどのワゴン車であれば5台以上で対象となります。

●訪問診療や往診に使用する乗用車
医師や看護師が患者宅を訪問するために使用する車両も対象です。訪問診療に特化したクリニックでは、複数の往診車を保有していることが多く、容易に5台の基準を超えてしまいます。

●訪問看護・介護ステーションの軽自動車
訪問看護師やヘルパーが移動に使用する軽自動車も、当然ながら台数に含まれます。小規模なステーションであっても、スタッフ数に合わせて車両を用意していれば、すぐに対象台数に達します。

●事務連絡や医薬品運搬用の社用車
直接的な医療行為や患者送迎以外に使用する車両も見落としがちです。検体搬送や薬剤の配送、関連施設間の連絡業務などに使用する車両も、すべて合算して判断してください。

医療現場の課題「直行直帰・緊急対応」をクリアする点呼ルール

医療や介護の現場では、一般的なオフィスワークとは異なり、変則的な勤務形態が常態化しています。特に対面点呼が原則とされるアルコールチェックにおいて、直行直帰や緊急呼び出しへの対応は大きな課題です。

しかし、法令は現場の実情を考慮した運用も認めています。ここでは、医療現場特有の働き方に合わせつつ、法的な要件を確実に満たすための具体的な運用ルールを解説します。

訪問看護・介護での「直行直帰」対応マニュアル

訪問看護ステーションやヘルパーステーションでは、自宅から利用者宅へ直行し、業務終了後はそのまま帰宅するケースが珍しくありません。原則として点呼は「対面」で行う必要がありますが、直行直帰の場合は例外として「対面に準ずる方法」が認められています。

具体的には、携帯型のアルコール検知器を携行させ、電話やビデオ通話等のリアルタイムな通信手段を用いて確認を行います。この際、単に数値を報告させるだけでは不十分であり、管理者は以下の手順を確実に履行しなければなりません。

●運転前後の検知器による測定と数値報告
ドライバーは乗車前に必ず検知器で測定を行い、その数値を管理者に報告します。管理者はその数値が「0.00mg/L」であることを確認し、記録に残す必要があります。

●通話またはビデオ通話による本人確認と状態観察
電話の声の調子や、ビデオ通話越しの顔色、応答の様子などを観察します。アルコールの影響がないか、数値以外の要素も含めて総合的に判断することが重要です。

●記録簿への確実な記載と保存
報告を受けた日時、測定結果、確認方法などを遅滞なく記録簿に記載します。直行直帰であっても記録を後回しにせず、その日のうちにデータを確定させることが求められます。

早朝・深夜・緊急往診時の「管理者不在」対策

24時間体制の訪問看護や、夜間の緊急往診があるクリニックでは、安全運転管理者が常に事業所に駐在することは物理的に不可能です。管理者が不在の時間帯に運転業務が発生する場合、「副安全運転管理者」や「補助者」を活用することで法令を遵守できます。

補助者は、安全運転管理者の業務をサポートする役割を担います。特別な資格は必要なく、業務内容を理解している職員であれば誰でも指名できますが、最終的な責任は安全運転管理者が負うことになります。

●補助者による点呼の代行
管理者が不在の早朝や深夜、休日の緊急出動時には、あらかじめ指名された補助者が点呼を行います。補助者は管理者と同様に酒気帯びの有無を確認し、その結果を記録します。

●補助者から管理者への報告フローの確立
補助者が行った点呼の結果は、後日必ず安全運転管理者に報告し、管理者が最終確認を行います。どのような手段で、いつ報告を行うかというルールを明確にしておくことが大切です。

●緊急時の判断基準の共有
万が一アルコールが検知された場合や、体調不良が見受けられる場合の対応を事前に決めておきます。補助者が迷わず「運転禁止」の判断を下せるよう、明確な基準を共有してください。

医師・看護師の負担を最小限にする記録・管理方法

医療従事者は常に時間に追われており、手書きの記録簿を作成・管理する業務は大きな負担となります。また、紙ベースの管理では、緊急時の記録漏れや紛失のリスクも高まります。

現場の負担を減らし、かつ確実な記録管理を行うためには、クラウド型管理システムやスマートフォン連携機能を持つ検知器の導入が極めて有効です。法令で定められた「1年間の記録保存義務」を果たす上でも、デジタル管理には多くのメリットがあります。

●スマートフォン連携による自動記録
検知器とスマホをBluetooth接続し、測定結果を自動的にクラウドへ送信します。手入力の手間を省くだけでなく、数値の改ざんや記入ミスを物理的に防ぐことができます。

●場所を選ばないリアルタイム管理
管理者は外出先や自宅からでも、スタッフの測定結果をリアルタイムで確認できます。直行直帰のスタッフが多い事業所でも、一元管理が可能となり、管理業務が大幅に効率化されます。

●記録データの検索と保存の簡便化
クラウド上に保存されたデータは、日付や担当者名で瞬時に検索できます。監査などで過去の記録提示を求められた際も、必要な情報を即座に取り出せるため安心です。

形式だけでは防げない!医療法人が抱えるリスクと検知器選び

アルコールチェックの義務化は、単なる事務手続きの増加ではありません。万が一の事態が発生した際、適切な運用が行われていなければ、医療法人としての存続に関わる重大なリスクに直面します。

法令遵守はもちろんのこと、医療安全と組織防衛の観点から、アルコールチェックの重要性を再認識する必要があります。ここでは、具体的な罰則と、医療現場に適した機器選びについて解説します。

違反時の罰則と医療法人としての信用リスク

道路交通法等の法令に違反した場合、事業者には厳しい罰則が科されます。安全運転管理者の選任義務違反には「50万円以下の罰金」、是正命令違反にも同様の罰金が科される可能性があります。しかし、金銭的なダメージ以上に、医療機関としてのブランド毀損は計り知れません。

さらに、業務中の交通事故に対しては、法人も「使用者責任」を問われることになります。適切な管理体制を構築していなかったと判断されれば、莫大な損害賠償請求に発展するケースも十分に考えられます。

感染対策を考慮したアルコール検知器の選び方

医療現場において、複数の職員で機器を使い回すことは感染リスクの観点から推奨されません。検知器選定の際は、精度だけでなく衛生面での管理しやすさを最優先に考えるべきです。

特にインフルエンザやコロナウイルスの感染予防を徹底している医療機関では、以下のタイプが適しています。

●ストロー式またはマウスピース交換式
吹き込み口に市販のストローや専用マウスピースを装着するタイプです。測定ごとに新しいものに交換できるため、唾液による飛沫感染のリスクを大幅に低減できます。

●ハンディタイプの個人持ち(貸与)
最も衛生的なのは、運転するスタッフ一人ひとりに専用の小型検知器を貸与することです。共用による感染リスクをゼロにでき、直行直帰の際もスムーズに携帯できます。

●据え置き型と携帯型の併用
拠点となる病院やステーションには高精度の据え置き型を設置し、訪問スタッフには携帯型を持たせるハイブリッド運用も有効です。用途に合わせて機器を使い分けることで、コストと精度のバランスが取れます。

いずれの機器を選んだ場合でも、定期的なメンテナンスは必須です。センサーには寿命があるため、使用回数や期限を管理し、常に正常に作動する状態を維持してください。

安全運転管理者・補助者の選任と運用開始ステップ

義務化への対応は、機器を買って終わりではありません。「誰が管理するか」を明確にし、警察署へ届け出ることで初めて法的な体制が整います。

ここでは、実際に誰を責任者にすべきか、どのような手続きが必要かといった事務的なアクションプランを解説します。

ステップ1:適任者の選定(事務長?看護師長?)

安全運転管理者になるには、「20歳以上」かつ「運転管理の実務経験が2年以上」という要件を満たす必要があります。一般的には、車両管理や労務管理に関わる役職者が適任です。

クリニックや中小規模の医療法人では、以下のような人物が選任されるケースが多く見られます。

●事務長や事務部門の責任者
車両の維持管理や保険契約などを統括している場合が多く、実務との親和性が高いポジションです。管理業務として一元化しやすいため、第一候補となります。

●看護師長や部門リーダー
訪問看護ステーションなどでは、現場の動きを最も把握している管理職が兼任することもあります。ただし、医療業務との兼務は負担が大きいため、補助者を付けて業務を分散させる配慮が必要です。

選任にあたっては、形式的な指名だけでなく、実際に毎日の点呼確認や記録のチェックを行える時間を確保できるかどうかが重要です。

ステップ2:警察署への届出と必要書類

安全運転管理者を選任した際は、選任した日から15日以内に、事業所を管轄する警察署へ届け出なければなりません。期限を過ぎても受理はされますが、法令違反の状態となるため早めの対応が必要です。

届出には、主に以下の書類が必要となります(都道府県により多少異なる場合があります)。

●安全運転管理者に関する届出書
警察署の窓口で入手するか、各都道府県警のホームページからダウンロードできます。

●住民票の写し(本人確認書類)
選任される管理者の住所・氏名を確認するための公的書類です。マイナンバーの記載がないものを用意してください。

●運転記録証明書など
管理者が過去に重大な交通違反をしていないことを証明するための書類です。自動車安全運転センターで発行可能です。

ステップ3:院内ルールの策定とスタッフ周知

ハード面と人事面が整ったら、最後にソフト面である「院内ルール」を策定します。「面倒な作業が増える」と現場が反発しないよう、導入の目的を丁寧に伝えることが大切です。

ルール作りと周知のポイントは以下の通りです。

●「安全運転管理規程」の作成
いつ、誰が、どのように点呼を行うか明文化します。アルコールが検知された場合の就業禁止ルールや、代行運転の手配手順なども具体的に定めておきます。

●医療安全の一環としての教育
朝礼や職員会議の場で、アルコールチェックは「法令順守」であると同時に「患者さんの安全を守る行為」であることを強調します。医療従事者としてのプロ意識に訴えかける説明が効果的です。

●操作方法のデモンストレーション
実際に検知器を使って見せ、使い方が簡単であることを伝えます。特に高齢のドライバーがいる場合は、個別に操作説明を行うなど手厚いフォローが求められます。

まとめ

医療機関におけるアルコールチェック義務化は、決して他人事ではありません。送迎車や訪問車を運用している以上、法令に基づいた厳格な管理が求められます。

対応が遅れれば遅れるほど、法的リスクや事故のリスクは高まります。しかし、適切な機器を選び、現場に即した運用ルールを定めれば、業務への負担は最小限に抑えることが可能です。

まずは自院の車両台数を確認し、安全運転管理者の選任が必要かどうかを判断することから始めてください。そして、今日からでもアルコール検知器の準備に着手しましょう。

患者さんと職員、そして地域社会の安全を守るために、今すぐ確実な一歩を踏み出してください。