2025.09.17

  • コラム

個人タクシーにも適用!アルコールチェック義務のルール・罰則・対応策を徹底解説

2022年以降、アルコールチェックは「努力義務」から「法的義務」へと移行しました。特に個人タクシー事業者にとっては、自分が対象になるのか、どこまで対応すべきかを判断しにくい状況が続いています。

この制度強化は、飲酒運転による事故を未然に防ぐために進められてきたものです。公共交通として利用者の命を預かるタクシー業界には、より厳格な安全管理が求められています。

この記事では、個人タクシーが法令上どのような扱いになるのか、いつから何が義務化されたのか、どのように日々の運用をすればよいかを整理しながら、対応に必要な判断材料を提供します。

個人タクシーはアルコールチェック義務の対象になるのか?

個人タクシー事業者は、緑ナンバーの事業用車両として道路交通法の適用を受けます。そのため、アルコールチェック義務の対象に該当します。

2023年12月からは、アルコール検知器による確認と、検知器の正常な保守管理(常時有効保持)も義務化されました。これに対応しない場合、安全運転管理者としての義務違反となり、罰則の対象になることがあります。

義務の内容を正しく理解し、適切に対処することが重要です。

緑ナンバー・白ナンバーの違いと対象範囲

ナンバープレートの色は、アルコールチェックの義務対象を判断する上で大きな意味を持ちます。

緑ナンバー
営業目的で使用される事業用車両。タクシー・運送・バスなどの用途が対象です。

白ナンバー
自家用として登録された車両。営業とは直接関係しない業務使用車などが該当します。

白ナンバーでも、以下の条件に当てはまる場合は義務対象になります。

●車両が5台以上ある場合
●乗車定員11人以上の車両が1台以上ある場合

なお、バイク(原付を除く)は0.5台としてカウントされます。

個人タクシーは緑ナンバーで営業しているため、これらの条件を満たさなくても義務対象に含まれます。

個人タクシーも義務対象とされる理由

国土交通省は、個人タクシー事業者もアルコールチェックの実施対象であると明記しています。これは、旅客輸送という社会的責任を担う事業者として、法人・個人を問わず安全管理体制を整える必要があるためです。

法令上、車両台数や事業規模に関係なく、営業運転を行う限り安全運転管理者の義務が発生します。個人だからといって例外になることはありません。

台数・使用実態による適用判断の注意点

白ナンバー車両を業務に使っている場合、保有台数や使用実態に応じて義務の有無が決まります。たとえば営業所で複数の車両を共用しているようなケースでは、全体の台数で判断されるため注意が必要です。

社内に白ナンバー車が5台以上ある場合
安全運転管理者の選任とアルコールチェックが義務化されます。

定員11人以上の車両が1台でもある場合
台数に関係なく、選任義務とチェック義務の対象となります。

使用実態が不明確な場合は、日常的に業務利用しているかどうかで判断されるケースもあります。形式的な台数だけでなく、実際の運用状況も確認しておくことが大切です。

いつから何が義務化されたのか?時系列で対応内容を理解する

制度変更に対応するには、「いつ・何が義務化されたのか」を正確に把握する必要があります。次の2段階の改正に分けて整理します。

2022年4月の改正:目視確認と記録義務の開始

この改正により、安全運転管理者を選任する事業所では、以下の対応が求められるようになりました。

●運転前後の酒気帯びの有無を目視などで確認すること
●確認内容を記録に残し、1年間保存すること

この時点では、アルコール検知器の使用は義務ではありません。あくまで人による確認で対応可能でした。ただし記録の保存は必須とされ、対応漏れがないよう管理体制を整えることが求められました。

2023年12月の改正:アルコール検知器の使用が義務に

この改正で、次の2点が新たに義務化されました。

●アルコール検知器を使用して酒気帯びの有無を確認すること
●検知器を常に正常な状態に保つこと(常時有効保持)

これは目視だけでは確認精度に限界があるため、機器による客観的な測定が必要とされたものです。検知器の故障や未校正による使用も法令違反となります。

対応が不十分な場合、安全運転管理者の業務違反として行政処分や罰則の対象になることがあります。

実務で対応すべきアルコールチェックの具体的な手順と管理方法

アルコールチェックを適切に行うには、法令で求められる流れと記録方法を正しく理解することが欠かせません。以下では、点呼の内容や記録保存のポイントを整理します。

点呼時の確認項目とその記録の仕方

アルコールチェックでは、目視確認を行う際にも一定の基準があります。以下の項目が代表的です。

顔色の異常がないか
赤みや青白さなど、飲酒を疑わせる症状がないかを確認します。

声の異常がないか
ろれつが回らない、発音が不明瞭などの兆候がないかを確認します。

呼気にアルコール臭がないか
近距離で会話し、アルコールのにおいがしないかを確認します。

確認結果は必ず記録し、1年間保管する必要があります。記録内容には、以下の情報を含めるのが基本です。

●確認日時
●確認者と運転者の氏名
●使用した方法(目視または検知器)
●酒気帯びの有無
●使用機器の有無や機種名(検知器使用時)

記録は紙でも電子でも構いませんが、確認可能な状態で整備しておくことが求められます。帳票の様式を統一し、漏れのない記録管理を徹底することが重要です。

アルコール検知器の使用方法と点呼の流れ

2023年12月からは、アルコール検知器を使って運転前後の酒気帯びを確認することが義務となりました。確認作業は、単独運転の個人タクシーであっても例外ではありません。

アルコール検知器を使用した点呼の基本的な流れは以下のとおりです。

●運転前に自分でアルコール検知器を使って測定する
●酒気帯びの有無を記録に残す
●運転後にも同様の確認と記録を行う

確認結果は、紙の点呼簿や専用の記録システムに記入します。記録には、測定時刻・運転者名・使用した検知器の情報・測定結果(酒気帯びの有無)を含める必要があります。

確認作業の正確性を保つためには、検知器の使用方法や点呼手順を日常的に見直すことも大切です。

遠隔・不在時の点呼と代替措置

個人タクシーの場合、運転前後に他者と対面する機会がないため、電話点呼やセルフチェックという代替措置が取られることがあります。警察庁や国土交通省も、現実的な対応としてこれを認めています。

遠隔や不在時の点呼で守るべきポイントは以下のとおりです。

●携帯型アルコール検知器を使用して自ら測定する
●測定結果を電話や記録で報告・記入する
●測定数値の記録は義務ではないが、酒気帯びの有無は必ず残す

記録には「アルコール検知器を使用したか」「酒気帯びはなかったか」の2点を明記します。点呼結果の信頼性を高めるために、検知器の定期点検やセルフ点呼のルール作成も必要です。

点検・校正・管理上の注意点

「常時有効保持」とは、単に検知器が手元にあるだけでは不十分です。正常に機能する状態を維持することが法律上の要件となっています。

以下のような管理が求められます。

●定期的に検知器の点検・校正を行う
●故障やバッテリー切れがないか確認する
●使い捨て型の場合は期限切れ品を使用しない

特に電子式の検知器は、精度が低下することがあります。製造元が推奨する周期(おおむね6〜12か月)で校正や点検を実施する必要があります。

不具合のある機器を使って点呼を行った場合、形式的なチェックをしても義務違反と見なされる可能性があります。保守記録を残し、いざという時に証明できる状態を維持しておきましょう。

義務違反時に問われる責任と罰則を正しく理解する

アルコールチェックを怠った場合、個人事業主であっても処分や罰則の対象となります。「ひとりでやっているから関係ない」とは考えないようにすることが重要です。

制度上は、安全運転管理者としての義務を果たしていないと判断された場合、行政処分や罰金が科されることがあります。

安全運転管理者の責任範囲と選任義務

タクシー事業者(個人含む)は、道路交通法に基づき安全運転管理者の選任義務があります。個人であっても、事業者として車両を運行している限り、安全運転管理者=自分自身という立場で責任を負うことになります。

主な責任は以下のとおりです。

●運転前後のアルコールチェック実施と記録管理
●使用機器の正常保持(常時有効保持)
●違反があった場合の是正措置の実施

これらを怠った場合、安全運転管理者としての適格性を疑われ、公安委員会から指導や是正命令を受ける可能性があります。

義務違反が発覚した場合の処分と罰金

アルコールチェック義務違反が発覚した場合、以下のような法的処分が科されることがあります。

安全運転管理者の選任義務違反
50万円以下の罰金が科される可能性があります。

酒気帯び運転を行った場合
3年以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています。

酒酔い運転を行った場合
5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることがあります。

これらの罰則は、事業継続にも影響を及ぼす深刻なリスクです。形式的な運用ではなく、実効性のある管理体制の整備が不可欠です。

個人タクシーが知っておくべきチェック体制構築のポイント

法令に対応するためには、日々の確認作業を制度として定着させる必要があります。個人事業主だからといって、簡略化したり省略したりするとリスクを抱えることになります。ここでは、無理のない形でアルコールチェック体制を構築するための基本ポイントを整理します。

コストと機器導入の現実的な対応策

アルコール検知器の導入と維持に関する負担は、個人タクシーにとって無視できない要素です。ただし、法令対応に必要な機能を備えた製品は市場に多く出回っており、価格帯も幅広いため、自身の運用状況に合ったものを選ぶことができます。

機器価格の目安
市販のアルコール検知器は、1万円未満の簡易型から、3万円〜4万円前後の高精度モデルまで多様な選択肢があります。

必要な機能の確認
検知結果を数値で表示できること、音やランプで反応すること、定期的な校正が可能な設計であることが望ましいとされています。

維持管理費の考慮
機種によっては、年に1〜2回の校正費やセンサー交換費用が発生する場合があります。購入時だけでなく、年間の維持コストも見積もっておくことが重要です。

過剰な機能を求めすぎず、日常運用に必要な範囲を明確にしたうえで、導入計画を立てることが現実的な対応の第一歩です。

記録保存と管理のための最低限のルール化

制度対応で重要なのは、確認そのものよりも「確認した事実を証明できる状態で管理すること」です。個人運行であっても、記録の保存と整理にはルール化が必要です。

記録の方法を明確にする
紙の点呼簿を使う場合でも、日付・氏名・確認結果・機器の使用有無など、必要事項が漏れなく記録されるようにします。

記録の保存期間を守る
アルコールチェックの記録は、少なくとも1年間は保存しておく義務があります。書類の保管場所や電子データの保存先を決めておきます。

不測の事態に備える
記録簿の紛失や機器の故障などに備え、予備の記録手段やトラブル時の対応ルールも設定しておくと安心です。

こうしたルールを簡単なチェックシートやメモ帳レベルでも構いませんので、「続けやすい形」に落とし込むことが長続きのコツです。

よくある誤解と実務上の注意点

アルコールチェック義務に関しては、制度を誤解したまま対応しているケースも少なくありません。特に個人タクシーのような小規模運営では、「自分には関係ない」と判断してしまうことでリスクを抱えている場合があります。以下では、実務上の注意点とよくある誤解を整理します。

「ひとりで運転しているから点呼不要」は誤解

点呼という言葉から「上司が部下に対して行うもの」というイメージを持ちやすいですが、個人事業主であっても点呼と確認記録の義務は発生します。自分でチェックを行い、自分で記録を残すことで対応可能です。

●点呼は他者との対面でなくても成立する
●セルフチェックでも法令上は認められている
●点呼の実施内容を記録することが義務の中心

この誤解によって対応を怠ると、形式上は法令違反と見なされる可能性があります。

アルコール濃度が0.15mg/L未満でも運転禁止?

呼気中アルコール濃度が0.15mg/L未満の場合、法律上は「酒気帯び運転」に該当しません。しかし、企業や団体によっては「基準値未満でも運転禁止」とする社内ルールを設けているケースがあります。

●法令と会社ルールの違いに注意
●検知器の数値にかかわらず、体調や反応に異常があれば運転を控えるべき
●「0.00」でない場合に再検査や運転見合わせとするルールも存在

個人で運行している場合でも、判断基準を明確に決めておくことで、トラブル回避や事故防止につながります。

まとめ

アルコールチェック義務化は、タクシー業界全体にとって避けて通れない制度となりました。特に個人タクシー事業者は、自身の業務の一部として、日々の確認・記録を確実に行うことが求められます。

今回紹介した内容を改めて整理すると、次のような点が重要です。

  • 法的に個人タクシーも義務対象である
  • 2022年に記録義務、2023年に検知器使用義務が施行された
  • 点呼はセルフチェックでも法令対応が可能
  • 使用機器の選定と記録方法を定めておくことが必要
  • 義務違反は重大な罰則に発展するおそれがある

制度対応に不安を感じている方も多いかもしれませんが、ポイントを押さえて順を追って体制を整えれば、無理なく実現できます。

確認すべき内容をルール化し、記録簿や検知器の管理を日常業務に組み込むことで、自然と安全意識の高い運行が定着します。

利用者の命を預かる仕事である以上、信頼される運転のためにも、義務化への備えを着実に進めていきましょう。