2025.07.31

  • コラム

社用車で飲酒運転が起きたら誰の責任?管理者・企業のリスクを徹底解説

社用車による飲酒運転事故が起きたとき、責任を負うのは誰でしょうか。

「運転した本人が責任を負う」という認識は当然ですが、それだけでは済まされません。運転者の酒気帯びに気づけなかった管理者や、記録を怠った企業側にも責任が及ぶ可能性があります。

近年の道路交通法の改正により、企業には安全運転管理体制の整備が義務づけられています。とくにアルコールチェックの義務化により、違反時には行政処分や損害賠償のリスクが企業にも及ぶようになりました。

この記事では、飲酒運転事故が発生した際に問われる「刑事・行政・民事」の三重責任を整理し、企業・管理者・運転者それぞれの責任範囲とリスクをわかりやすく解説します。

企業、そして管理者として、どこまで備えておくべきか。この記事が、その指針となることを目指します。

飲酒運転事故が起きたら「誰が責任を問われるのか」

飲酒運転事故が発覚すると、「刑事責任」「行政処分」「民事責任」の三つの責任が関係者に問われる可能性があります。

ここではまず、この責任構造を整理し、運転者だけでなく企業や管理者が直面するリスクを明確にします。

刑事責任の実際

刑法や道路交通法により、飲酒運転には重い刑事罰が科されます。事故の有無や内容に応じて、以下の処分が想定されます。

危険運転致死傷罪(刑法208条の2)
アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で事故を起こし、人を死傷させた場合。
負傷事故では15年以下、死亡事故では1年以上20年以下の懲役となります。

自動車運転過失致死傷罪
酒気帯び状態で注意を怠って事故を起こした場合。
7年以下の懲役または禁錮、または100万円以下の罰金です。

飲酒検知拒否
呼気検査を拒否した場合、3か月以下の懲役または50万円以下の罰金です。

酒類提供者や同乗者の罰則
運転者の飲酒を知りながら酒類を提供したり車を貸した場合も、罰則の対象になります。

また、企業の懲戒規定や就業規則では、飲酒運転は懲戒解雇の対象となる重大な違反行為です。処分を受けた従業員には、退職金の不支給やローンの一括返済義務が生じることもあります。

行政処分のリスク

道路交通法に基づく行政処分では、違反点数や免許停止・取消などの処分が科されます。違反の内容に応じた処分は以下のとおりです。

酒酔い運転(正常な運転ができない状態)
35点/免許取消(欠格期間3年)

酒気帯び運転:0.25mg/L以上
25点/免許取消(欠格期間2年)

酒気帯び運転:0.15mg/L以上0.25mg/L未満
13点/免許停止90日

さらに他の交通違反が重なると、点数が加算され処分がより重くなります。

アルコールチェックを怠った場合、安全運転管理者や事業所にも、警察からの指導や行政処分が下る可能性があります。

民事責任と損害賠償

飲酒運転による事故では、企業や使用者が民事責任を問われることがあります。

物損事故:車や建物などの修理費
人身事故:治療費、入院費、休業補償、後遺障害による逸失利益、慰謝料など

運転者が任意保険に加入していても、企業の管理責任が認められると、企業側にも損害賠償請求が及ぶ可能性があります。

とくに事故が就業中に発生したと判断されると、企業には「使用者責任」が問われ、高額な賠償に発展することもあります。

安全運転管理者や企業が問われる責任の実例

管理者や企業に責任が及ぶのは、以下のような管理不備がある場合です。

確認ミス
出発前の目視確認を怠り、酒気帯びを見逃した。

記録漏れ・保存不備
アルコールチェックの記録がなく、確認の証拠が提出できなかった。

装置の故障・放置
故障した検知器をそのまま使い、測定不能のまま出発させた。

教育・周知不足
管理者や補助者への説明や研修がなく、体制不備が明らかだった。

こうした不備があると、企業の管理体制そのものが問題視され、監督官庁からの是正指導や、社会的信用の失墜を招くリスクがあります。

「個人任せ」にしない管理体制が必要な理由

飲酒運転を防ぐ体制づくりで、もっとも危険なのは「運転者任せ」や「確認したつもり」という意識です。

実際の違反事例や現場での誤解を見ていくと、形だけの運用では飲酒運転を防げないことが明らかになります。ここでは、安全運転管理の実効性を高めるための重要な観点を紹介します。

よくある誤解とそのリスク

「メールで報告すればOK」
アルコールチェック結果を写真で撮り、メールやLINEで報告する運用がありますが、これはNGです。
双方向のやり取りがない方法は「確認」とはみなされず、法令違反になります。

「直行直帰ならノーチェックで可」
対面確認が原則ですが、直行直帰を理由に確認を省略するのは誤解です。
遠隔でも「顔色や声の調子の確認」「検知結果の報告」が必要です。

「運転前だけ確認すればいい」
法令では運転の前後に確認することが義務です。運転後の確認を怠ると、記録不備とされます。

「自転車・原付は対象外だから不要」
原則対象外ですが、業務で使用していれば企業の飲酒運転防止義務が問われる場合もあります。

これらの誤解に共通するのは、「確認の目的が形骸化していること」です。本人任せにしたり、手段だけ整えて運用されていないケースでは、事故時に重大な管理責任を問われます。

対面確認原則と代替手段の誤用

法令では「酒気帯び確認は対面が原則」とされています。これは、顔色・呼気のにおい・声の調子など身体的な異常を把握するためです。

しかし、以下のような代替手段の誤用は、法令違反となるおそれがあります。

写真送信のみの対応
検知器の結果を撮影して送るだけでは、運転者の状態を確認できず不十分です。

システム通知のみの管理
クラウド型システムで自動通知されても、対話による確認がなければ「確認」とは認められません。

録画・録音の送付で完了させる
収録した動画や音声を送るだけでは、リアルタイムでの応答が確認できず、代替手段とはなりません。

こうした誤った運用が常態化すると、事故が起きた際に「確認義務を怠った」と判断され、企業の過失とされるリスクがあります。

実務対応:アルコールチェックの3つの運用モデルを比較

法令に沿った確認体制を構築するには、自社に合った方法を選ぶことが欠かせません。

ここでは、代表的な3つの運用モデル(紙台帳+市販チェッカー/スタンドアロン型測定器/クラウド型システム)を、記録の手間・管理のしやすさ・監査対応の観点から比較します。

紙台帳+市販チェッカー

導入コストが低く始めやすい
市販の簡易検知器と紙の帳票で対応できるため、初期費用を抑えられます。

記録の手間と不正のリスクが大きい
手書きによる記録はミスや記録漏れが起きやすく、虚偽記載も防げません。

監査対応が煩雑
記録の紛失や確認ミスがあると、監査時に説明できなくなります。

スタンドアロン型測定器

検知精度が高く信頼性がある
呼気中のアルコール濃度を数値で示す機器が多く、結果が明確です。

記録・集計・遠隔確認に不向き
測定結果の保存は手作業が中心で、直行直帰や複数拠点の管理には不便です。

運用が属人的になりやすい
測定を担当する人に依存するため、不在時や緊急時の代替が必要です。

クラウド型チェックシステム

自動記録でミスを防げる
測定日時や結果、顔認証の情報が自動保存され、信頼性が向上します。

遠隔確認と本人認証が可能
モバイル端末とカメラにより、直行直帰や出張先でもリアルタイムで確認できます。

データ管理と監査対応が効率的
記録データはクラウド上に保存され、Excel出力や検索がかんたんに行えます。

「クラウド型チェック」はどこまで現実的な解決策か

クラウド型アルコールチェックシステムは、記録の自動保存や遠隔管理ができることから、法令対応と業務効率の両立を目指すツールとして注目されています。

ただし、「導入すれば安心」という考えには注意が必要です。ここでは、クラウド型の強みと、運用上の注意点を整理します。

リアルタイム記録と本人確認機能

クラウド型の最大の利点は、「誰が・いつ・どこで・どう測定したか」をリアルタイムで把握できることです。

GPS・時刻付きデータの自動保存
測定時の位置情報と時間が記録され、不正や改ざんを防げます。

顔認証による本人確認
測定者の顔写真を記録し、代理での測定を防止できます。

リアルタイム通知で即時対応が可能
異常値や未測定があれば、管理者に自動通知され、すぐに対応できます。

これらの機能により、確認作業の信頼性が大きく向上し、複数拠点や遠隔地でも一元的な管理が可能になります。

不正防止・データ保存・監査対応の容易さ

クラウド型チェックは、記録管理や監査対応にも強みがあります。

記録の自動保存でペーパーレス化
紙台帳とは異なり、紛失や改ざんのリスクがありません。

Excel・CSV形式での出力に対応
点呼記録や月次報告書の作成が効率化され、監査対応もスムーズです。

異常検知・未実施リストの自動作成
測定漏れや異常値をシステムが自動で抽出し、管理の見落としを防げます。

とくに、多拠点展開や出張・直行直帰の多い業種では、クラウド型の遠隔確認機能が大きな効果を発揮します。

クラウド型の限界と注意点

一方で、クラウド型にも注意点があります。適切な運用ルールがなければ、形だけの運用になってしまうおそれがあります。

通信環境に左右されやすい
圏外や電波が不安定な場所では、リアルタイム確認ができず、漏れの原因になります。

「自動通知=確認完了」ではない
法令では「対話による状態確認」が必要とされており、通知された数値だけでは確認とは認められません。

運用ルールの整備が欠かせない
誰が確認し、異常時にどう対応するかなど、社内のルールを明文化して共有する必要があります。

クラウド型は、あくまで「手段」です。「確認者の目と声」が伴ってこそ、法令に準拠した対応が実現できます。

導入判断前に確認したい実務ポイント

アルコールチェック体制を整えるには、クラウド型を含むどの手段を選ぶにしても、「運用ルールの明確化」と「実行体制の構築」が欠かせません。

とくに次の3点を事前に整理することで、形だけの運用を防ぎ、現場に根づいた体制がつくれます。

確認者の指定と教育

安全運転管理者が不在の場合の代替者を明確に
法令では、副安全運転管理者や補助者も確認を行うことができます。

確認者に必要な教育を行う
顔色・声の調子・呼気のにおいなどの判断基準や対応フローを、研修で共有します。

記録者と確認者の役割を分ける
測定者・確認者・記録者があいまいにならないよう、それぞれの役割と責任を明確にします。

直行直帰・出張・休日対応の仕組み整備

遠隔確認の方法を正式に決めておく
カメラ通話や業務用無線など、双方向の確認ができる手段を明文化しておく必要があります。

補助者の配置と手順の整備
深夜・早朝・祝日などにも対応できるよう、シフト設計や補助者の指定を行います。

携帯型検知器の配備
出張や直行直帰の運転者には、携帯型の検知器を持たせて現地で確認できる体制が必要です。

故障・不在・緊急時のバックアップ体制

検知器が常に使える状態を維持
定期点検や使用期限の管理、予備機の確保などで、常時使用可能な体制を整えます。

故障時の対応フローを明確に
故障時には予備機を使う、またはすぐに報告して代替手段をとる手順を決めておきます。

トラブル時の報告と記録を徹底する
測定できなかった場合も、理由や対応内容を記録に残すことが重要です。

「自社に合った方法」を考えるきっかけに

アルコールチェックの運用に、絶対的な正解があるわけではありません。紙台帳、スタンドアロン型、クラウド型——それぞれにメリットと注意点があります。

大切なのは、自社の業態や拠点数、人員体制、ITリテラシーに応じて、最適な方法を自ら選ぶ姿勢です。

小規模な事業所なら紙台帳でも対応可能
運転者が少なく、管理者と常に対面できる環境であれば、コストを抑えて法令に対応できます。

中規模以上の事業者は、クラウド型の検討を
拠点が複数あったり、出張が多い場合は、属人的な管理では限界があり、効率的な運用が必要です。

クラウド型は「導入して終わり」ではない
導入後もルール整備・社内教育・運用の見直しを続けてこそ、実効性が生まれます。

さらに、クラウド型を選ぶ場合は、価格や機能だけでなく、導入支援・サポート体制・監査対応など、実務に即した視点での比較検討が欠かせません。

飲酒運転防止体制は、法令対応だけでなく、企業の信頼やブランド価値を守るうえでも重要です。

「確認したつもり」「忙しくて記録を後回しにした」——その一瞬の油断が、大きな損失につながるのです。

今こそ、自社に合った運用方法を見直し、形だけでなく実効性のある体制を築く第一歩を踏み出すべきときです。

まとめ

飲酒運転は、運転者だけでなく企業や管理者にも大きなリスクをもたらします。

飲酒運転が発覚すると、刑事・行政・民事の三重責任が問われます。
管理者や企業にも、確認漏れや記録不備があれば、損害賠償や信用の失墜が及びます。
多くの現場では「確認したつもり」「報告があればOK」といった誤解が残り、運用が形骸化しています。
チェック手段は紙からクラウドまでさまざまで、自社に合った選択が重要です。
クラウド型は有効な手段の一つですが、ルールや教育体制を整えなければ効果は発揮されません。

飲酒運転は、もはや「個人の問題」では済まされません。

これからは、企業と管理者がより厳格な体制を構築し、継続的に運用していくことが求められます。「うちは大丈夫」と思うことが、最大のリスクです。

この機会に、アルコールチェック体制を見直し、実効性ある仕組みづくりを始めましょう。