2026.01.27
- コラム
電力・ガス業界必読!保守車両のアルコールチェック義務化と点呼の実務
電力やガスといった公共インフラを支える企業にとって、日々の安全管理は信頼の根幹です。
安定供給を守るための保守業務において、車両の運行は欠かせません。
しかし、2023年12月より完全義務化された「白ナンバー事業者へのアルコール検知器使用」は、これまでの業務フローに大きな変革を求めています。
多くの現場で、従来の点呼方法では対応しきれない場面が出てきています。
この記事では、インフラ業界特有の事情を踏まえ、自社の保守車両が法的な義務化対象にあたるかの判断基準を解説します。
さらに、緊急呼び出しや直行直帰といった現場の現実に即した、具体的な点呼運用フローについても詳しく紹介します。
現場の混乱を防ぎ、コンプライアンスを確実に守るための体制づくりにお役立てください。
電力・ガスの保守車両はアルコールチェック義務化の対象か?
結論から言えば、電力やガス事業者が保有する多くの営業所や出張所が、アルコールチェック義務化の対象となる可能性が高いです。
「うちは運送業ではないから関係ない」「数台しか置いていない出張所だから大丈夫」といった認識は、法令違反のリスクを招きます。
法令では業種を問わず、使用する車両の台数によって義務の有無が機械的に決まります。
まずは自社の各拠点が、法律の定める基準に該当しているかどうかを正確に把握する必要があります。
「白ナンバー」義務化の対象基準(5台以上)
道路交通法の改正により、安全運転管理者の選任が必要となる事業所の基準は明確に定められています。
以下のいずれかの条件を満たす事業所は、アルコール検知器を用いた酒気帯び確認が必須です。
●乗車定員11人以上の自動車を1台以上使用している
マイクロバスやジャンボタクシークラスの車両がこれに該当します。
現場への送迎用バスなどを保有している場合は、たった1台でも対象となります。
●その他の自動車を5台以上使用している
一般的な乗用車やライトバン、トラックなどがここに含まれます。
車種や用途に関わらず、白ナンバーの車両であればすべてカウントの対象です。
ここで注意が必要なのは、自動二輪車の扱いです。
検針業務などでバイクを使用している事業所も多いはずです。
●自動二輪車(原付を除く)は1台を0.5台として換算する
排気量50ccを超える自動二輪車は、2台で自動車1台分とみなされます。
自動車が4台でも、バイクが2台あれば合計5台となり、義務化の対象です。
また、この台数カウントは会社全体ではなく「事業所(拠点)ごと」に行います。
●各営業所・出張所単位で判断する
本社で一括管理している場合でも、実際に車両が配置されている拠点ごとに安全運転管理者の選任が必要です。
小規模な出張所であっても、車両数が基準を超えていれば独立して管理体制を敷く必要があります。
サービスカー・緊急車両も例外ではない
法令における「自動車」の定義には、その用途による除外規定はほとんどありません。
業務に使用する車両であれば、緊急車両やロゴ入りのサービスカー、検針車もすべて対象です。
●緊急走行ができる車両も対象に含まれる
赤色灯を装備した緊急作業車であっても、道路交通法上は自動車として扱われます。
災害時やトラブル対応時の出動であっても、事前のアルコールチェックが免除されるわけではありません。
●構内専用車以外はすべてカウントする
公道を走行する可能性のある車両はすべて管理対象です。
私有地内のみを走行する特定の車両を除き、ナンバープレートが付いている車両はすべて台数に含めます。
かつては「緑ナンバー(運送業)」のみに厳格な点呼が求められていました。
しかし、2021年に千葉県八街市で発生した白ナンバーのトラックによる飲酒運転事故をきっかけに、一般企業の管理責任が問われるようになりました。
●企業のコンプライアンス意識が問われている
もはや「運送業ではないから」という言い訳は通用しません。
社会インフラを担う企業として、一般企業以上に厳格な安全管理が求められています。
【2023年12月施行】義務化された具体的な業務内容
すでに施行されている法令の内容を正しく理解し、現在の業務フローに漏れがないかを確認してください。
なんとなく実施しているだけでは、万が一の事故の際に法的責任を果たしていると認められない場合があります。
アルコール検知器を用いた酒気帯び確認
最も重要な変更点は、運転者の顔色や呼気のにおいを確認するだけの「目視確認」では不十分になったことです。
必ず「国家公安委員会が定めるアルコール検知器」を使用し、数値による確認を行わなければなりません。
●運転前と運転後の両方で実施する
出庫時だけでなく、業務終了後の帰庫時にも検査が必要です。
業務中に飲酒をしていないことを証明するため、必ずセットで行います。
●対面での確認が原則である
安全運転管理者は、運転者と対面して検知結果を確認します。
顔色や声の調子など、機器だけでは分からない体調変化もあわせてチェックするためです。
記録の作成と1年間の保存義務
確認を行った事実は、必ず記録として残し、1年間保存する義務があります。
検査をやったとしても、記録がなければ「やっていない」のと同じとみなされます。
以下の項目は必須の記載事項です。
●確認を実施した日時
日付だけでなく、具体的な時刻まで記録します。
運転前後それぞれのタイミングが明確になるようにします。
●運転者名と確認者名
誰が運転し、誰がチェックを行ったかを特定します。
確認者は原則として安全運転管理者ですが、補助者が代行することも可能です。
●酒気帯びの有無と指示事項
アルコールが検知されなかったことの記載が必要です。
もし検知された場合は、運転を禁止した旨とその後の指示内容を記録します。
紙の台帳で管理することも法的には可能です。
しかし、毎日発生する膨大な記録を1年間保管し、必要な時にすぐに取り出せる状態で管理するのは容易ではありません。
改ざん防止や検索性の観点からも、デジタルデータでの管理が推奨されます。
検知器の常時有効保持(メンテナンス)
アルコール検知器は、一度買えば永久に使えるものではありません。
内蔵されているセンサーには寿命があり、使用回数や期間に応じて劣化します。
●正常に作動する状態を維持する
いざ検査しようとした時に「電池切れ」や「故障」で使えない状態は、法令違反となります。
予備機を含め、常に使用可能な状態を保つ必要があります。
●定期的な買い替えや校正を行う
メーカーが推奨する使用期限や使用回数を超えた機器は、測定精度が保証されません。
定期的に新しい機器に買い替えるか、専門業者によるメンテナンス(校正)を受ける必要があります。
エネルギー業界特有の課題と「点呼」の実務対応策
一般的なオフィス勤務とは異なり、エネルギー業界には特有の働き方があります。
24時間体制での監視や、広範囲にわたる現場への移動など、実務に即した対応策が必要です。
ここでは、現場で直面しやすい3つの課題と、その具体的な解決策を解説します。
課題1:夜間・休日の緊急呼び出し(緊急出動)
災害や設備トラブルによる停電・ガス漏れなどは、時間を選ばずに発生します。
深夜や休日に緊急出動要請があった場合、事業所に安全運転管理者が不在であるケースがほとんどです。
しかし、緊急時であっても法令上のアルコールチェック義務は免除されません。
このような事態に備え、管理者不在でも適法に点呼を行える体制づくりが急務です。
●副安全運転管理者や補助者を選任しておく
安全運転管理者の業務をサポートする「副安全運転管理者」や、実務を代行できる「補助者」をあらかじめ選任します。
交代制で点呼担当者を配置したり、当番制を敷くことで、24時間誰かが点呼を行える状態を作ります。
●電話やオンラインでの点呼体制を整える
管理者が現場に駆けつけるのが難しい場合、電話やビデオ通話を用いた点呼も認められる場合があります。
ただし、これはあくまで管理者が対面できない正当な理由がある場合に限られるため、事前の社内規定整備が必要です。
課題2:現場への直行直帰・遠隔地対応
広大な供給エリアを持つ電力・ガス会社では、一度出社してから現場へ向かうのが非効率な場合があります。
自宅から現場へ直行したり、業務終了後に現場から自宅へ直帰したりするケースです。
原則として点呼は対面で行う必要がありますが、直行直帰の場合は「対面に準ずる方法」が認められています。
これらを活用し、コンプライアンスを保ちながら業務効率を維持する方法を採用します。
●カメラ付きモニターやスマホのビデオ通話を利用する
電話の声だけでは、顔色や目の充血といった体調変化を確認できません。
スマートフォンやタブレットのビデオ通話機能を使い、お互いの顔を見ながら点呼を行うことで、対面に準ずる確認とみなされます。
●携帯型アルコール検知器を携行させる
直行直帰を行う社員には、持ち運び可能な携帯型のアルコール検知器を貸与します。
ビデオ通話中に検知器を使用し、その測定結果をカメラ越しに管理者に見せることで、確実な酒気帯び確認が可能になります。
課題3:多拠点・広域エリアの管理
エネルギー事業者は、本社以外にも多数の営業所、保守センター、サテライトオフィスを抱えています。
拠点ごとに紙の台帳や個別のエクセルで管理していると、全社の状況を把握するのが困難になります。
データが散逸していると、監査が入った際や事故発生時に、会社としての管理責任を証明するのに時間がかかります。
また、転勤や応援などで人が移動した際、データの引き継ぎミスが起こるリスクもあります。
●全拠点のデータを本部で一元管理できるシステムを導入する
各拠点の測定結果が自動的にクラウドサーバーに集約される仕組みを構築します。
本部管理者はリアルタイムで全拠点の実施状況をモニタリングでき、未実施者への指導も迅速に行えます。
●拠点間でのデータ共有ルールを定める
他拠点の車両を使用する場合や、応援先で点呼を受ける場合のルールを統一します。
どの拠点で点呼を受けても、その記録が確実に個人のデータとして蓄積される仕組みが必要です。
現場の負担を減らす「クラウド管理」と機器の選び方
法令対応を単なる「面倒な作業」で終わらせず、業務効率化のチャンスに変える視点が重要です。
アナログな管理手法から脱却し、デジタルツールを活用することで、現場の負担を大幅に減らすことができます。
自社の運用スタイルに合った適切な機器とシステムを選ぶことが、持続可能な管理体制の第一歩です。
携帯型と据え置き型の使い分け
アルコール検知器には大きく分けて「据え置き型」と「携帯型」の2種類があります。
これらを業務形態に合わせて適切に使い分けることで、コストと精度のバランスを最適化できます。
●事務所出発用には高精度な据え置き型を設置する
多くの社員が出入りする営業所には、耐久性が高く、測定精度の高い据え置き型が適しています。
プリンターと連動して結果を即座に印字できる機種や、免許証リーダー機能がついた機種を選ぶと、点呼業務がスムーズになります。
●持ち出し用にはスマホ連携可能な携帯型を配備する
直行直帰や出張が多い社員には、小型で軽量な携帯型を持たせます。
Bluetooth機能搭載でスマートフォンと連携できるタイプなら、測定結果を自動で送信でき、手入力の手間や転記ミスを防げます。
また、検知方式にも違いがあります。
「半導体式」は安価ですがセンサー寿命が短く、「電気化学式(燃料電池式)」は高価ですが精度が高く長持ちします。
使用頻度や予算に応じて、最適な方式を選択します。
スマホ連携・クラウド管理のメリット
手書き台帳やExcel管理には限界があります。
クラウド管理システムを導入することで、管理者の工数は劇的に削減され、コンプライアンスレベルも向上します。
●手書き台帳を廃止し、管理工数を削減する
測定結果、日時、場所、顔写真などのデータが自動でクラウドに保存されます。
管理者は毎日の記録を回収・保管する必要がなくなり、検索や集計も一瞬で完了します。
●なりすまし防止機能で不正リスクを排除する
スマートフォンのカメラで測定中の顔写真を撮影したり、AIによる顔認証を行ったりする機能があります。
「他人に吹いてもらう」といった不正行為をシステム的に防ぎ、確実な本人確認を実現します。
●免許証の有効期限や車両予約と連携する
アルコールチェックと同時に、免許証の不携帯や期限切れをチェックできるシステムも存在します。
車両予約システムと連携させれば、「チェック未実施の場合は鍵を貸し出さない」といった物理的な制御も可能です。
コンプライアンス違反のリスクと企業の責任
「バレなければいい」「形式だけ整えればいい」という考えは、企業にとって致命的なリスクとなります。
万が一違反が発覚した場合や、飲酒運転による事故が発生した場合、その代償は計り知れません。
安全運転管理者の業務違反に対する罰則
アルコールチェック義務化は道路交通法に基づく法的義務です。
違反した場合、企業および安全運転管理者には明確なペナルティが科せられます。
●安全運転管理者の選任義務違反
必要な台数があるにも関わらず管理者を選任していない場合、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
届出を怠っているだけでも違反となるため、人事異動などの際は速やかな手続きが必要です。
●アルコール検知器の備え付け義務違反
検知器を備えていない、あるいは故障して使えない状態を放置している場合、安全運転管理者の業務違反となります。
是正命令に従わない場合、解任命令が出されることもあり、企業の管理能力が問われます。
インフラ企業としての社会的信用の失墜
法的処罰以上に恐ろしいのが、社会的信用の失墜です。
特に公共性の高いエネルギー企業にとって、「安全」は何よりも優先されるべき価値です。
●ブランドイメージの毀損と顧客離れ
飲酒運転事故や管理体制の不備が報道されれば、長年築き上げてきた地域住民からの信頼は一瞬で崩れ去ります。
「ライフラインを預かる企業として失格」という烙印を押されれば、顧客離れや不買運動につながる可能性もあります。
●指名停止処分による事業への大打撃
官公庁や自治体の入札に参加している場合、法令違反によって指名停止処分を受けるリスクがあります。
一定期間、公共工事や業務委託に関われなくなることは、経営に直接的な大打撃を与えます。
「記録があること」は、企業がやるべきことをやっていたという証明になります。
万が一従業員が事故を起こした場合でも、会社として厳格な管理を行っていた記録があれば、企業の責任範囲を明確にする証拠となり得ます。
まとめ

電力・ガス業界におけるアルコールチェック義務化は、単なる法令対応ではありません。
社会インフラを支える企業としての信頼を守り、従業員を悲惨な事故から守るための重要な投資です。
まずは自社の車両台数を改めて確認し、すべての営業所・出張所が法令基準を満たしているかチェックしてください。
その上で、緊急出動や直行直帰といった現場の実態に合わせ、無理なく確実に実施できる点呼フローを構築することが求められます。
クラウドツールなどのデジタル技術を賢く活用し、コンプライアンスと業務効率を両立させる体制を整えましょう。