
2025.10.15
- コラム
運行管理者は運転できない?誤解と法律の真実、兼任OKの条件を徹底解説
「運行管理者は運転してはいけない」という話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。運送業界で広まっているこの認識は、実は法令上の事実とは異なります。にもかかわらず、多くの現場で「運転=違反」と誤解され、適切な人材配置や業務体制の構築を妨げているケースが見受けられます。
本記事では、この誤解の背景を明らかにしたうえで、運行管理者がドライバー業務を兼任できる具体的な条件や注意点を、法令に基づいてわかりやすく整理します。実務に直結する違反リスクや、現場での判断に迷いやすいグレーゾーンへの対処法まで、幅広くカバーしています。
制度の正しい理解は、効率的で安全な運行体制づくりに直結します。「うちの体制でも兼任は可能か?」「どこまでなら問題ないのか?」といった疑問を持つ方が、自社の判断材料として活用できる内容です。
「運行管理者は運転してはいけない」は誤解です
運行管理者が運転業務に就くことを、法律が一律に禁止しているわけではありません。しかし、現場では「運転してはいけない」とする誤解が根強く残っています。この章では、その背景と法的事実を明らかにします。
誤解の原因と背景
以下のような要因が、誤解の広がりにつながっています。
●社内指導マニュアルの表現
「運行管理者は運転禁止」と簡略化された表現が、内部教育資料に記載されているケースがあります。
●一部の行政指導での伝達方法
実務監査の場で、「兼任は望ましくない」「原則禁止」といった趣旨の指導が、あたかも絶対的な法令であるかのように受け止められたケースがあります。
●業務量への懸念
点呼・記録管理など、運行管理者本来の業務が多岐にわたるため、「運転まで担うのは不可能」という前提で話が進みやすくなっています。
これらの要因が重なり、あたかも法律で明確に禁止されているような誤解が定着しているのが実情です。
法律に「運転禁止」と明記されていない事実
実際の法令を確認すると、「運行管理者は運転してはいけない」と明記された条文は存在しません。以下の主要な法令を見ても、そのような規定は見当たりません。
●道路運送法:運行管理者の責務や安全確保の義務は規定されているが、運転の可否には言及なし。
●貨物自動車運送事業輸送安全規則:運行管理者の選任義務、業務内容の詳細はあるが、「運転禁止」の規定はない。
●モデル運行管理規程(国交省指導):他営業所の兼任などは明確に禁止されているが、運転そのものを制限している記述はない。
このように、法律上「運行管理者=運転不可」という図式は存在していません。したがって、正しくは「条件付きで運転も可能」と理解するのが正確です。
運行管理者が運転を兼任できる条件を法令ベースで正確に理解する
運行管理者が運転業務を兼任するには、一定の条件を満たす必要があります。ここでは、その法的根拠と実務判断のポイントを解説します。
兼任が可能とされる法的根拠と解釈
法令に明確な記述がなくても、行政運用上「本来業務に支障が出なければ運転兼任は可能」という解釈が広く用いられています。
●国交省の行政解釈(通達・通知)では、「点呼などの管理業務を確実に履行できる体制があれば、運行管理者自身が運転業務を兼ねても構わない」とされています。
●業界向けの運行管理マニュアルでも、運転そのものを禁止する記載はなく、「兼任する場合は支障がない体制の確保」が前提条件とされています。
このため、「可能かどうか」ではなく「本来業務に支障が出るかどうか」が判断軸になります。
本来業務に支障がないとはどういうことか
「支障がない」という判断には、次のような要素が含まれます。
●点呼が適正に行われていること
出庫・帰庫時の対面点呼、IT点呼などの要件を満たし、記録が適正であること。
●運転者台帳や運行記録の整備ができていること
乗務記録・点呼簿・運行指示書などが法定通りに作成・保存されていること。
●乗務時間・休憩・拘束時間の管理ができていること
兼任によって労務管理が不十分になるリスクがないこと。
これらが確実に行えるのであれば、運行管理者が自ら運転すること自体は制度上問題ありません。
一時的な運転・臨時対応は実務上どこまで許容されるか
繁忙期や急な人員不足などで、運行管理者が一時的に運転業務を担わざるを得ない場面は現場でも珍しくありません。こうしたケースでも、法令上は「本来業務に支障がなければ可能」とされていますが、以下のようなリスクが伴います。
●点呼の不実施や記録不備が発生するリスク
運転に従事することで、他の乗務員への点呼を行う時間的余裕がなくなり、点呼記録の未記載・遅延が起こりやすくなります。
●拘束時間・休憩時間の超過
管理者が自身の労務管理まで手が回らず、法定の拘束時間や休息時間をオーバーするリスクがあります。
●行政監査での指摘対象になる可能性
「支障がない」状態が保たれているかどうかは、書類や実態を基に判断されます。万一問題があれば、「業務不履行」と見なされ、指導・処分対象になります。
臨時的な対応であっても、点呼・記録・労務管理の体制を整備し、記録として残すことが、実務上の安全ラインです。つまり「臨時だから大目に見られる」という発想ではなく、臨時でも違反には問われうると認識しておく必要があります。
兼任できないケースはここで判断!禁止・制限されている実例
一部のケースでは、運行管理者が運転業務を兼任することが制度上、または運用上、明確に制限されています。以下に典型的な例を紹介します。
他営業所の運行管理者との兼任は禁止
運行管理者は、所属営業所に専任することが求められており、他営業所との兼任は明確に禁止されています。これは、国土交通省が示すモデル運行管理規程にも明記されています。
●営業所ごとの常勤性・専任性が求められるため、他拠点との兼任は物理的に不可能
●運行管理者の役割が「常時その営業所の運行体制を把握し管理する」ことにあるため
この点は法令だけでなく、行政監査でも厳しく確認されるため、兼任の検討対象から外すべきです。
業務の性質上、同時遂行が不可能な業務形態
以下のような運行形態では、実務的に運行管理者が運転を兼ねることが困難、または不適とされます。
●長距離運行・夜間運行
長時間の運転により、管理者として必要な点呼や記録業務の遂行が現実的に困難。
●複数便を並行して管理する体制
他のドライバーが複数人いる中で、自身も運転する場合、点呼・指示の実施が漏れるリスクが高まります。
●日中業務が多く、点呼のタイミングと重なる形態
出庫前点呼を実施する時間帯に、すでに自ら出発しているといった状況では管理が成立しません。
これらは明文規定ではなくとも、監査や指導で「業務不履行」と判断される可能性が高いため、事前に体制と役割分担を十分に検討する必要があります。
違反するとどうなる?運転兼任における行政処分とリスク
運行管理者が兼任を行う際に、本来業務を適切に遂行できていないと判断された場合、行政処分の対象になります。ここでは、実際に起こりうる処分と違反事例を紹介します。
具体的な違反事例と行政処分の内容
運行管理者の「兼任ミス」によって、次のような典型的な違反が発生しています。
●点呼の未実施・記録の不備
出発・帰庫時の点呼が行われておらず、記録も存在しない。これは「点呼義務違反」として即座に指摘対象になります。
●乗務時間のオーバー、過労運転
自身の運転に集中するあまり、他のドライバーの拘束時間管理が不十分で、過労運転を見逃すケース。
●点呼記録・乗務記録の保存不備
帳票やデジタルデータの未保存により、監査時に「実施の証明ができない」状態となる。
これらはすべて、「運行管理者としての義務不履行」と見なされ、処分の対象になります。
運行管理者資格返納命令・事業停止命令の実例
違反が重大と判断される場合、次のような厳しい処分が科されることもあります。
●運行管理者証の返納命令(資格喪失)
●事業者に対する業務停止命令(最大30日など)
●再発防止命令と罰金・警告処分
行政処分は単に個人にとどまらず、事業者全体に影響することを認識し、「記録」「実施体制」「人員配置」の整備が必要です。
実務で気をつけたい運行管理者兼任のポイント
運行管理者が運転を兼任する場合、法的に許容される条件を満たすだけでなく、現場の体制として「証拠に残せるかどうか」が極めて重要です。この章では、実務上見落とされがちな注意点を整理します。
点呼義務と記録管理:最新ルールへの対応
2024年以降、点呼に関する記録義務が強化されており、以下のような変更に対応する必要があります。
●点呼記録の保存期間延長
法定では1年間以上の保存が求められていますが、行政監査では2年分の履歴を確認されるケースもあります。
●録音・録画による点呼の証拠化
非対面点呼(IT点呼・電話点呼など)の場合、音声データ・映像の保存が必須となってきています。
●点呼簿の電子化推奨
紙での保存でも構いませんが、クラウド管理や自動記録システムの導入が推奨されています。記録の改ざん防止や検索性の向上が目的です。
これらの変更点に対応していない体制で兼任を行えば、「支障がある」と判断されるリスクが高まります。
兼任体制の整備と補助者制度の活用
兼任を成立させるには、「本来業務に支障がないこと」の裏付けとなる体制の整備が不可欠です。その一環として、補助者制度の活用が有効です。
●補助者制度の位置づけ
運行管理補助者は、運行管理者の指示のもとに業務の一部を担う役割です。点呼の代行、記録作成などが可能です。
●重要なポイント
補助者が点呼を実施する場合でも、最終責任は運行管理者にあることを忘れてはなりません。
●補助者選任の条件
十分な経験・知識を持ち、運行管理者との連携が取れていること。事前に社内規程や選任届出を整備しておく必要があります。
補助者制度は「完全な代行者」ではなく、支障のない体制の一部を構成するものとして捉えるべきです。
デジタル点呼の有効活用で実務負担を軽減
ICT技術を活用することで、兼任による実務負担やリスクを大きく軽減できます。以下は代表的な手法です。
●IT点呼システムの導入
カメラ・マイク付き端末を使い、遠隔で点呼を実施し、その内容を録画・録音で記録する仕組みです。
●クラウド運行管理システム
乗務記録、労務管理、点呼履歴などをリアルタイムに記録・確認・分析できる環境を構築できます。
●AI音声記録対応の点呼支援ツール
音声入力・解析により、ヒューマンエラーを減らし、点呼記録の信頼性を高める技術も普及しつつあります。
こうしたシステムを活用することで、「支障がない体制」を証明しやすくなります。特に兼任体制では、実施の履歴・証拠が“見える化”されているかが重要です。
他の管理者との制度上の兼任関係を正しく理解する
運行管理者が運転を兼ねるだけでなく、他の管理者制度(整備管理者・安全運転管理者)との兼任が問題になるケースもあります。制度ごとに可否と留意点を整理します。
整備管理者との兼任は可能だが実務での制限も
整備管理者と運行管理者は、制度上は兼任可能とされています。ただし以下の制約に注意が必要です。
●整備管理者は常勤である必要がないため、兼務しやすい立場です。
●一方、運行管理者は専任かつ常勤が求められます。
●運転業務まで加わると、三重兼務(運転・整備・運行管理)は現実的に困難です。
制度上の可否にかかわらず、実務負荷が高すぎる場合には監査で指摘対象になるため、「形だけの兼任」は避けるべきです。
安全運転管理者制度と運行管理者制度の違いと兼任可否
この2つの制度は、対象となる車両や事業形態が異なるため、混同しないことが大前提です。
●安全運転管理者
営業用ではない社用車(白ナンバー)を一定台数以上保有する事業所に義務付けられる管理者。
●運行管理者
営業用自動車(緑ナンバー)を保有する運送事業者における安全運行責任者。
両制度における役割・責任の範囲が異なるため、事業内容に応じて選任義務が発生します。重複する場合でも、制度ごとの業務が果たせていれば兼任は可能です。
制度の“グレーゾーン”にどう対応するか
法令で明確に禁止されていない場合でも、実務上は判断が分かれる「グレーゾーン」が数多く存在します。こうした場面では、制度の目的に立ち返って判断する視点が重要です。
「実質的に運行管理ができているか」が判断の軸
制度上の可否にとらわれすぎず、次のような視点で体制を見直すと、グレーゾーンでの判断が明確になります。
●点呼・指導・記録が適切に実施されているか
●管理業務が他の職務により阻害されていないか
●「管理者の顔が見える」運行管理体制があるか
つまり、形式的に兼任を避けていても、実態として業務が疎かになっていれば違反とみなされる可能性がある一方で、きちんと体制と証拠が整っていれば、兼任でも問題視されにくいというのが現実です。
また、重要なのは「支障が出ていない」ことを書類で証明できるかどうかです。日々の点呼記録、乗務記録、乗務員の労務データなどが、判断の根拠となります。
行政監査で問題視されるポイントとは
運行管理体制に関する行政監査では、以下の点が特に重点的に確認されます。
●点呼の実施記録・音声記録・映像記録
●運転者台帳・運行指示書・乗務記録の整合性
●運行管理者自身の出退勤記録と点呼時間の整合
●補助者への指示内容とその記録(口頭指示では不十分)
これらの資料が曖昧、または管理者の行動と矛盾している場合、「形式的な管理のみ」と見なされ、是正命令や指導につながります。
グレーゾーンで不安がある場合には、記録を整備し、体制を見える化しておくことが最大のリスク対策です。
よくある質問(FAQ)
ここでは、運行管理者の運転に関して、実務現場で特に多く寄せられる質問とその回答を、法令・制度に基づいて整理します。
Q. 繁忙期だけ兼任してもよい?
A. 一時的であっても、本来業務に支障が出る場合はNGです。運行管理者としての業務が十分に実施されていないと判断されれば、繁忙期でも違反と見なされる可能性があります。
ポイントは「一時的なら許される」ではなく、実施体制と記録が適正であることを証明できるかどうかです。
Q. 点呼は補助者に任せても大丈夫?
A. 補助者制度の範囲内であれば任せても構いません。ただし、最終責任はあくまで運行管理者にあります。
補助者に任せる場合は以下が必須です。
●補助者としての適正な選任と記録
●補助者が行った点呼について、運行管理者が把握し承認する体制
●点呼内容の記録(音声・映像含む)が残っていること
責任の所在が曖昧になると、監査での指摘リスクが高まります。
まとめ

「運行管理者は運転してはいけない」という誤解は、法令上の事実とは異なります。実際には、本来業務に支障がなければ運転の兼任は可能です。
しかし、兼任を正当に成立させるには、以下の点が重要です。
●点呼や記録、乗務管理が確実に実施されている体制があること
●支障がないことを“証拠”として示せる状態であること
●補助者制度やICTツールを活用して、業務負担を分散できていること
また、運行管理者が運転を兼任できるかどうかの判断は、「制度上できるか」ではなく「実務上、支障なくできるか」にかかっています。形式だけではなく、実態で管理体制が問われる時代です。
本記事を通じて、読者の皆様が自社の体制に合った判断基準を持ち、「誤解なく」「確実に」「安全に」制度を活用していただければ幸いです。