2025.06.16

  • コラム

福祉理美容にも義務?訪問車両のアルコールチェックと点呼管理

高齢者や障害をもつ方々の生活を支える訪問美容サービスは、地域福祉の重要な一翼を担っています。利用者にとっては、自宅や施設で安心して整容を整えられる手段として重宝されています。

一方で、訪問理美容業者の多くは、サービス提供のために移動理容車や福祉送迎兼用車両といった「業務使用車両」を日常的に利用しています。こうした車両の運用にあたっては、改正道路交通法により、点呼およびアルコールチェックの義務が課されるケースが存在します。

近年は、白ナンバー車両であっても、一定条件を満たす場合には「安全運転管理者制度」の対象となり、法的な点呼管理や記録保存の責任が発生するようになりました。

「訪問美容は福祉目的だから対象外だろう」と考えるのは危険です。誤解や対応不足が、事業停止や信頼損失といった深刻な結果を招く可能性もあります。

本記事では、福祉理美容サービスに携わる方々に向けて、点呼・アルコールチェックの義務化の背景と実情、そして現場での実践的な対応策について詳しく解説します。適切な対応を通じて、安全で信頼される訪問サービス体制の構築を後押しします。

福祉目的でも「業務使用車両」になる背景と法的根拠

訪問美容や福祉理美容サービスで使用される車両は、たとえ送迎や介助を目的とした移動であっても、「業務使用車両」として法律上の管理対象となる可能性があります。

道路交通法施行規則における車両管理の定義
業務に使用する車両のうち、以下に該当する事業所は、安全運転管理者の選任義務と点呼管理義務が発生します。

該当条件1:白ナンバー車を5台以上保有している
軽自動車や普通乗用車であっても対象に含まれます。

該当条件2:乗車定員11人以上の車両を1台以上保有している
福祉送迎車やリフト付きバンなど、定員の多い車両が対象となります。

これらの条件に合致した場合、訪問美容の形態にかかわらず、安全運転管理者制度の適用対象となります。

福祉目的でも業務と見なされる理由
利用者宅や福祉施設に向けて車両を運行する行為そのものが、「事業活動の一部」として評価されます。したがって、美容サービス提供を目的とした移動が「業務使用」に該当し、法律上の管理対象とされます。

結果として、点呼やアルコールチェックを怠った場合には、法令違反として罰則の対象となりうる点に留意が必要です。

点呼・アルコールチェック義務化に至った法改正の経緯

訪問美容業者にも関係する点呼・アルコールチェック義務化は、段階的な法改正により整備されてきました。

2022年4月施行:記録義務の導入
白ナンバー車両を使用する事業所に対し、運転者の状態を「目視等」で確認し、その内容を記録・1年間保存する義務が追加されました。

2023年12月施行:アルコール検知器の使用義務化
運転前後のアルコールチェックに、国家公安委員会が定めるアルコール検知器を用いることが義務付けられ、記録も必須となりました。

このように、段階を追って義務が強化され、対象範囲が拡大されたことにより、訪問美容や福祉関連事業も例外ではなくなっています。

義務化が福祉美容サービスに及ぶ根拠

訪問美容事業における「業務使用車両」の法的管理義務が発生する基準は、以下の通りです。

白ナンバー車を5台以上保有している場合
普通車・軽自動車問わず、業務使用の白ナンバーが対象台数に含まれます。

乗車定員11人以上の車両を1台以上保有している場合
福祉送迎車や介護対応車両など、ハイエースサイズの車両に多く見られます。

拠点ごとに台数を集計する必要がある
事業所単位での判断となるため、複数の拠点で車両を分けている場合でも、各拠点で対象台数を満たすかどうかを確認する必要があります。

安全運転管理者の選任義務と届出
条件に該当する事業所は、安全運転管理者を選任し、所轄の警察署に届出を行う必要があります。選任後は、点呼記録やアルコールチェック結果の保存など、日常的な管理業務が発生します。

アルコール検知器の要件と運用ルール

訪問美容業者が導入すべきアルコール検知器や記録の運用方法には、法令上の明確な基準があります。以下に要点を整理します。

アルコール検知器に求められる性能

使用する機器は、国家公安委員会が定めた要件を満たしている必要があります。

呼気中のアルコールを検知できること
数値表示、警告音、警告灯などの手段により、アルコールの有無や濃度を明確に示す機能が必要です。

市販品の使用も可能
専用品の指定はありませんが、正確性や信頼性を担保できる製品を選ぶ必要があります。

常時有効保持の義務

検知器は、いつでも使用可能な状態を保たなければなりません。

故障や不具合がないことを定期的に確認する
取扱説明書に従って保守管理を行い、必要に応じて速やかに交換します。

測定誤差や故障を防ぐための点検体制が必要
使用回数や経年劣化を踏まえて、予備機器の準備も検討すべきです。

点呼記録に必要な8項目

アルコールチェック実施の証拠として、次の情報を記録し、1年間保存することが法令で求められています。

1. 確認者の氏名
点呼を実施した安全運転管理者または補助者の氏名を記録します。

2. 運転者の氏名
対象となる運転者の氏名を明記します。

3. 車両識別情報
確認対象の車両ナンバーまたは識別記号を記載します。

4. 確認日時
運転前・運転後のそれぞれの確認日と時刻を記録します。

5. 確認方法
対面か遠隔かを区別し、使用した手段(カメラ、電話など)も記載します。

6. アルコール検知器の使用有無
実際に検知器を用いたかどうかを明記します。

7. 酒気帯びの有無
測定結果が酒気帯びなしであること、または該当する結果を正確に記録します。

8. 指示事項・備考
異常があった場合の指示内容や補足すべき情報を記載します。

これらの項目は、事故発生時の調査や監査時の証明として極めて重要です。正確な記録と継続的な保存管理が、事業の信頼性を高めます。

業務負担への影響と現実的な運用対策

点呼やアルコールチェックの義務化により、訪問美容業者の業務には新たな負担が加わります。小規模事業者にとっては、人手や時間、コスト面での影響が懸念されます。ここでは、実際の業界の声を交えつつ、現実的な運用対策を紹介します。

時間的負担の増加
運転前後の確認に要する時間が加算されるため、1日の訪問件数が制限される恐れがあります。

記録作成と保存業務の煩雑化
点呼記録を正確に残し、保存する作業が増えることで、現場スタッフの業務が煩雑になります。

担当者の人員確保が必要
安全運転管理者または補助者を適切に配置する必要があるため、人手不足の事業所では体制整備が課題となります。

このような課題に対して、多くの事業者が現場に即した工夫を講じています。

点呼支援システム・クラウド利用の導入事例

最新の点呼支援ツールやシステムを導入することで、業務負担を軽減しつつ、法令順守を実現する取り組みが広がっています。

クラウド型点呼システムの導入
スマートフォンやタブレットを活用し、アルコールチェックの結果を自動で記録・共有できる仕組みです。直行直帰の運転者にも対応しやすく、時間・場所を問わず点呼が可能となります。

検知器連携による自動記録化
測定結果がクラウドに自動保存されることで、記録漏れや改ざんのリスクが低減されます。管理者はダッシュボードで全車両の点呼状況を把握でき、管理工数が削減されます。

本人確認機能の活用
顔認証や音声録音を組み合わせることで、運転者本人の確認と検査の正確性を担保します。

クラウド型点呼は、導入コストは一定程度かかるものの、日常業務の効率化や信頼性向上の観点から評価されるケースが増えています。

小規模事業者でも取り組みやすい簡易検知器・運用工夫

大規模なシステム導入が難しい事業者向けに、コストを抑えつつ法令に対応できる実践的な工夫も注目されています。

携帯型アルコール検知器の活用
数千円〜数万円の小型機器でも、国家公安委員会の基準を満たしていれば使用可能です。携帯性に優れ、直行直帰にも対応できます。

記録様式の簡略化とテンプレート活用
点呼記録用紙をフォーマット化し、必要項目をあらかじめ記載しておくことで、現場での記入負担を軽減できます。

スマホやタブレットによる遠隔点呼の実施
管理者と運転者がスマートフォンで通話しながら点呼を行う方法は、設備投資が不要で実現可能です。カメラ付き通話での顔確認も、対面に準じた確認方法として有効です。

これらの手法は、予算が限られた事業者にとっても現実的かつ即応性のある対応策となり得ます。法令を正しく理解し、現場に適した方法を選ぶことが、継続的なサービス提供と安全管理の鍵となります。

法令遵守を怠った場合のリスクと信頼獲得

訪問美容事業者が点呼やアルコールチェックの義務を怠った場合、法令違反として重大なリスクが発生します。単に罰則を受けるだけでなく、顧客や施設からの信頼を損なう事態にもつながりかねません。

安全運転管理者未選任の罰則
法令で義務付けられているにもかかわらず、安全運転管理者を選任していない場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

点呼記録の不備による行政指導
点呼やアルコールチェックの記録が不適切、もしくは保存義務に違反している場合には、監査時に指摘を受け、改善命令や業務指導の対象となります。

交通事故発生時の責任拡大
アルコールチェック未実施の状態で事故が起きた場合、事業者としての管理責任が問われ、損害賠償額が拡大する恐れがあります。刑事責任や営業停止処分に至るケースも想定されます。

社会的信用の失墜
福祉理美容という社会貢献度の高いサービスにおいて、安全管理が不十分であることが公になると、地域社会や利用者家族からの信頼を大きく損ないます。

契約解除や取引停止のリスク
福祉施設や自治体との契約においても、法令順守は重要な前提です。違反が発覚した場合、契約打ち切りや委託解除に至る可能性があります。

これらのリスクは、単なる罰金やペナルティにとどまらず、長期的な事業運営に深刻な打撃を与えるものです。逆に言えば、法令を遵守し、適切な点呼・チェック体制を整備している事業者は、次のような形で信頼を獲得することができます。

顧客や施設からの評価向上
安全・安心に配慮した体制を構築することで、施設職員や利用者家族から「信頼できるサービス提供者」として高く評価されます。

地域福祉との連携強化
法令遵守を徹底している事業者は、行政や福祉関係機関との連携・協力がスムーズになります。結果として、安定した業務受託や支援の受けやすさに直結します。

差別化と競争力の強化
事業者間でのサービス品質の差が浮き彫りになる中、法令対応をしっかり行っていることは、大きな信頼要素・差別化要素となります。

訪問美容は、人の暮らしに深く関わる仕事であり、信頼の上に成り立っています。その信頼を支える基盤として、点呼・アルコールチェックの制度を単なる義務と捉えるのではなく、「安全と誠実さを証明する手段」として前向きに活用することが求められます。

まとめ

訪問美容・福祉理美容の分野においても、道路交通法の改正によって、点呼およびアルコールチェックの義務が生じるケースが確実に増えています。業務用の白ナンバー車両を複数保有している場合や、乗車定員11人以上の福祉車両を運用している事業所は、「安全運転管理者制度」の対象となる可能性が高まります。

福祉目的だからといって、法令の適用が免除されるわけではありません。移動理容車や送迎兼用車両であっても、事業活動の一環として運転が行われる以上、点呼・酒気帯び確認の管理体制は不可欠です。

とはいえ、小規模な訪問美容業者にとっては、法令対応が新たな業務負担となることも現実です。そこで注目されるのが、クラウド型の点呼支援システムや、スマートフォンを活用した簡易な運用工夫です。無理なく導入できる方法を選びながら、着実に義務対応を進めることが可能です。