2024.11.12

  • コラム

2023年の道路交通法改正:企業のリスクと対応策

2023年12月から施行された道路交通法の改正により、企業におけるアルコールチェックの義務が大幅に強化されました。企業はドライバーや運送担当者に対してアルコールチェックを実施し、その記録を適切に管理する責任を負うこととなりました。

本記事では、この法改正の背景や目的、企業が遵守すべき具体的な義務内容、アルコールチェックの方法と運用手順、法令違反時のリスクとペナルティ、そして企業が準備すべき対策と体制づくりについて詳しく解説します。これらの情報を通じて、企業がコンプライアンスを強化し、安全な職場環境を実現するための指針を提供します。

道路交通法改正の背景と目的

近年、飲酒運転による重大な交通事故が相次ぎ、社会問題となっています。2021年6月に発生した千葉県八街市での事故では、下校中の児童5人が飲酒運転のトラックにはねられ、死傷するという痛ましい事件が起こりました。

このような事故は、被害者やその家族だけでなく、地域社会全体に深刻な影響を及ぼします。飲酒運転は、運転者の判断力や反応速度を著しく低下させ、重大な事故を引き起こすリスクが高まるため、社会全体でその根絶が求められています。

アルコールチェック義務化の目的

飲酒運転による悲惨な事故を防止するため、政府は道路交通法の改正を行い、企業に対してアルコールチェックの義務化を導入しました。この改正の主な目的は、企業が自社のドライバーに対して適切なアルコールチェックを実施し、安全運転管理を徹底することで、飲酒運転による事故を未然に防ぐことにあります。企業の社会的責任を明確化し、交通安全への取り組みを強化することで、安全な交通環境の実現を目指しています。

企業に求められる具体的な義務内容

改正道路交通法により、一定の条件を満たす企業にはアルコールチェックの実施が義務付けられました。具体的には、以下の条件に該当する企業が対象となります。

  • 乗車定員が11人以上の自動車を1台以上保有している事業所
  • その他の自動車を5台以上保有している事業所

これらの条件を満たす企業は、安全運転管理者を選任し、運転者に対して運転前後のアルコールチェックを実施する義務があります。チェックの頻度やタイミングについては、運転前と運転後の2回、酒気帯びの有無を確認することが求められています。

チェック対象の職種や業務内容

アルコールチェックの対象となるのは、業務で自動車を運転する全ての従業員です。具体的には、営業車を使用する営業職、社用車を運転する管理職、配送業務を行うドライバーなどが該当します。直行直帰や出張などで自家用車を業務に使用する場合も、アルコールチェックの対象となります。企業は、これらの従業員に対して適切なアルコールチェックを実施し、飲酒運転の防止に努める必要があります。

アルコール検知方法と記録管理

アルコールチェックは、国家公安委員会が定める基準を満たしたアルコール検知器を使用して行う必要があります。検知器は、呼気中のアルコールを検知し、その有無や濃度を警告音や警告灯、数値などで示す機能を有するものとされています。アルコールチェックの結果は記録し、1年間保存する義務があります。

記録には、チェックの日時、運転者の氏名、検知結果などを含める必要があります。これらの記録は、万が一の事故発生時や監査時に確認される可能性があるため、適切に管理することが求められます。

アルコールチェックの方法と運用手順

アルコール検知器を選定する際には、法的基準を満たす製品を選ぶことが重要です。具体的には、呼気中のアルコールを正確に検知し、その有無や濃度を表示できる機能を有するものが求められます。企業の運用状況に応じて、据え置き型や携帯型など、適切なタイプを選ぶことも重要です。導入時のコストやメンテナンス費用も考慮し、長期的に運用可能な製品を選定することが望まれます。

チェック実施の流れと頻度

アルコールチェックは、運転前と運転後の2回実施することが求められています。具体的な手順としては、まず運転前にアルコール検知器を使用して酒気帯びの有無を確認します。運転前に異常がなければ運行を許可しますが、もしアルコールが検知された場合、該当の従業員に対して乗車を禁じ、場合によっては追加の検査や指導が必要です。

運転後には再度アルコールチェックを行い、業務中の飲酒がなかったかを確認します。この一連の手順を、全従業員が理解し日常業務として徹底することで、企業としての飲酒運転防止に対する取り組みが強化されます。

直行直帰のケースでは、自宅や現地でのチェックが必要となるため、スマートフォンと連動した携帯型アルコール検知器を活用する企業も増えています。検査結果がリアルタイムで記録されるため、管理者が遠隔で確認でき、直行直帰でも対応が可能になります。

運用上の注意点

アルコールチェックを適切に行うには、機器の定期点検や正確な操作方法の周知が重要です。アルコール検知器は、使用頻度が高いほど故障のリスクが高まるため、定期的に点検やメンテナンスを実施し、精度を保つ必要があります。従業員が正しい操作方法を理解していなければ、検査結果の信頼性が損なわれる可能性があるため、定期的な説明会や研修を通じて正確な使用法を指導します。

業務中の飲酒に関するリスクや法的責任についても従業員に対して周知徹底を図り、全員の意識向上に努めることが求められます。

法令違反時のリスクとペナルティ

アルコールチェックを怠ると、企業には罰金や行政処分といった法的リスクが発生します。アルコールチェック未実施のまま飲酒運転による事故が発生した場合、企業が安全対策を怠ったと見なされ、社会的な信頼が大きく損なわれる恐れがあります。これにより取引先からの信用を失うだけでなく、新たな契約や融資の審査に悪影響を与える可能性もあります。

記録不備や虚偽報告に対するペナルティ

アルコールチェック結果の記録不備や虚偽報告も、道路交通法違反に該当します。チェック実施時間や検査結果が正確に記録されていない場合や、管理者が故意に虚偽の報告を行った場合には罰金が科され、場合によっては企業の運転管理体制そのものが問題視されることもあります。監査や抜き打ち検査で不備が発覚した場合には、法的措置に加えて、社会的なイメージの悪化や顧客からの信頼失墜につながります。

企業が準備すべき対策と体制づくり

まず、企業内でアルコールチェックの責任者を任命し、業務全体の流れを管理する役割を設けることが重要です。責任者は、検査の実施状況や記録を監督し、不備がないか定期的に確認します。外部監査や内部監査を通じて、運用体制を見直し、継続的に改善することも求められます。定期的に報告書を作成し、経営層へのフィードバックを行うことで、企業全体の安全管理意識を高める効果があります。

従業員への指導と社内規定の整備

アルコールチェック義務化に伴い、従業員に対する教育や指導が不可欠です。アルコールの影響や飲酒運転のリスクについての理解を深めさせるため、定期的な研修を実施し、全員がルールを遵守できるよう徹底します。社内規定の整備も重要で、アルコールチェックの手順や対応策を明文化し、従業員に周知する必要があります。万が一のトラブル発生時にも迅速な対応が可能になります。

最新情報の収集と対応策

法改正や社会情勢の変化に迅速に対応するため、業界団体や専門機関を通じて最新情報を収集する体制を整えます。アルコール検知器の技術が進化した場合や、法的基準が変更された場合に備え、常に最新の情報を得ることで企業内の体制を柔軟に見直せるようにしておくことが重要です。

まとめ

2023年12月からの道路交通法改正によるアルコールチェック義務化は、企業に新たな責任と義務を課すものです。これに伴い、企業は厳格な体制の構築や従業員教育を通じて、コンプライアンスの向上と安全な職場環境の実現を目指す必要があります。

今回の法改正を契機に、アルコールチェックの運用を徹底し、企業としての安全管理を強化していくことが、今後の社会的信頼を築くための重要なポイントとなるでしょう。