2024.11.26
- コラム
アルコールチェック義務化!対象となる人・車両・企業は?
2022年4月1日以降、段階的に強化されてきたアルコールチェック義務が、2023年12月に全面施行されました。この改正は、飲酒運転による事故を防ぐだけでなく、企業の安全運転管理体制の向上を目指しています。事業者には従業員の酒気帯び確認や記録管理といった新たな対応が求められます。
飲酒運転は多くの命を奪い、社会に深刻な影響を及ぼしてきました。政府はこれを防止するために、過去にも様々な対策を講じてきましたが、それでも重大事故が後を絶ちませんでした。今回の法改正は、飲酒運転を完全に排除するための強力な措置の一環であり、企業にはより厳格な管理体制の構築が求められています。
この記事では、アルコールチェック義務化の背景や改正内容を詳しく解説します。具体的な対象者や対象企業・車両について触れ、事業者がスムーズに対応するための実務的なポイントも紹介します。この情報を参考に、法改正への対応を計画し、飲酒運転ゼロを目指した企業運営を実現してください。
アルコールチェック義務化の概要
アルコールチェック義務化の背景と目的について解説します。飲酒運転の防止や国の交通安全対策強化の一環としての位置付けを確認し、2023年改正の主なポイントを明らかにします。
義務化の背景
アルコールチェック義務化が強化された背景には、以下の3つの要因があります。
1.飲酒運転による重大事故の防止
飲酒運転は死亡事故の原因となることが多く、社会全体での撲滅が求められています。職業運転者による飲酒運転が重大事故につながるケースが問題視されており、企業に対して徹底した管理が期待されています。
2.交通安全対策の一環
国の交通安全基本計画に基づき、飲酒運転を含む危険運転の撲滅が優先課題とされています。この背景には、事故による経済的損失の削減や被害者救済の重要性が挙げられます。
3.労働安全衛生の観点
企業が従業員の安全を確保することは、労働安全衛生法でも義務付けられています。アルコールチェックは、従業員の健康と安全を守るための重要な手段と位置づけられています。
2023年法改正のポイント
改正内容を具体的に確認してみましょう。
アルコール検知器の使用義務化
運転業務を行う従業員に対し、始業前と終業後にアルコール検知器を使用した検査が義務付けられました。検知器を用いることで、目視確認では難しい微量な酒気も検知可能になります。
対象範囲の拡大
義務化の対象は、以前よりも広がっています。具体的には、白ナンバー車両を5台以上保有する事業者や、乗車定員11人以上の車両を1台以上保有する事業所は、道路交通法第66条に基づく対象事業者に該当します。
違反時の罰則強化
アルコールチェックを実施しない場合や記録を適切に保存していない場合には、公安委員会から行政指導を受ける可能性があり、重大な違反がある場合には罰則の適用を受けることがあります。罰則内容には地域差があるため、各都道府県の公安委員会の指導内容を確認する必要があります。
アルコールチェックの対象者
アルコールチェックが必要な従業員の範囲について詳しく解説します。対象となる業務や従業員の具体例を挙げながら、対象外となるケースや注意すべき点を整理します。
対象者の範囲
配送業務を行うドライバーや、営業活動で社用車を利用する社員、さらに地方拠点間の移動を行う社員は、全て道路交通法第66条で規定される安全運転管理制度の対象となります。
配送業務を行うドライバー
運送会社や物流業において、トラックやバンを使用して荷物を運ぶドライバーが該当します。これらの従業員は、日常的に運転業務に従事しているため、検査の頻度も高くなります。
営業活動で社用車を利用する社員
営業先訪問のために自社保有の車両を利用する営業担当者も対象です。例として、不動産会社や保険業界の営業マンが挙げられます。
地方拠点間の移動を行う社員
地方都市に複数拠点を持つ企業では、拠点間の移動に自家用車を使用するケースがあります。この場合も、業務に関わる運転とみなされ、アルコールチェックが必要です。
適用外となる場合
アルコールチェックが義務付けられないケースも存在します。
公共交通機関を利用する従業員
業務移動が電車やバスによるもので、運転を伴わない場合は対象外です。
徒歩で業務を行う従業員
都市部で徒歩を主な移動手段とする業務では、アルコールチェックの対象にはなりません。
注意点
パートタイムや契約社員も対象
一時的な雇用形態であっても、業務中に運転を行う場合はアルコールチェックの対象となります。これには派遣社員も含まれるため、契約内容を確認し、対象者に適切な指導を行う必要があります。
業務の兼務者への対応
運転業務が主ではないが、時折運転を行う従業員(例: 総務部員が社用車で備品の買い出しに行く場合)も対象になります。このようなケースでは、対象範囲を柔軟に捉えることが重要です。
アルコールチェックの対象企業
どのような企業がアルコールチェックの義務を負うのか、その条件を説明します。業種や車両の保有状況による適用基準を明確にし、企業が準備すべき対応策についても触れます。
対象企業の条件
アルコールチェック義務化の対象となる企業は、以下の条件を満たす事業者です。
白ナンバー車両を5台以上保有する事業者
企業が保有する社用車や営業車両の台数が5台以上の場合、対象となります。配送業や不動産業など、日常的に車両を利用する業種が該当します。
乗車定員11人以上の車両を1台以上保有する事業者
社員送迎バスや観光業で使用する大型車両を保有している企業も対象に含まれます。
個人事業主も該当する場合がある
車両保有数の条件を満たしていれば、法人でなくても対象となるケースがあります。
適用される業種
アルコールチェック義務化の対象となる業種は多岐にわたります。以下に主な例を挙げます。
運送業
大型トラックや配送用車両を保有する運送業者は、最も典型的な対象です。
サービス業
顧客訪問を伴う業務が多いサービス業では、営業車両の使用が多く、対象となる可能性が高いです。
建設業
資材運搬や現場移動で車両を頻繁に使用する建設業も含まれます。
IT・通信業
一見すると対象外と思われがちですが、保守・点検業務で車両を使用するケースがあるため、注意が必要です。
対象事業所
運行管理を行う拠点
車両を管理する事業所が対象となります。たとえ従業員数が少なくても、管理対象の車両数が条件を満たしていれば義務が適用されます。
小規模事業所の注意点
支店や小規模オフィスが保有する車両であっても、管理責任が生じます。このため、拠点ごとに管理体制を整える必要があります。
補足: 車両台数が基準未満でも注意
車両数が基準未満の場合でも、運転業務を外部委託している場合には委託先の対応状況を確認し、自社の責任を明確にする必要があります。
アルコールチェックの対象車両
アルコールチェック義務化が適用される車両の種類や条件を詳しく解説します。対象外となる場合や業務形態ごとの対応例についても取り上げます。
適用される車両
アルコールチェック義務化の対象となる車両は、業務で使用される全ての車両です。この対象範囲は、業務形態や業種によって大きく異なりますが、以下の具体例が含まれます。
貨物車両
物流業で使用されるトラックやバンが該当します。荷物運搬を日常的に行う企業では、ほぼ全ての車両が対象となります。
営業用車両
営業活動で使用される車両(例: 乗用車や軽自動車)も含まれます。営業担当者が利用する車両は、個人の所有車であっても、業務利用が確認されれば対象となります。
従業員送迎用の車両
乗車定員11人以上の送迎バスやシャトルバスを運行する企業も対象です。製造業や観光業では、従業員や顧客の送迎を目的に大型車両を保有しているケースが一般的です。
レンタカー
業務で一時的に借りた車両も対象に含まれる場合があります。ただし、レンタル期間や利用頻度によって対応が異なる場合があるため、契約時に確認が必要です。
適用条件の例外
一部の車両については、義務化の適用外となる場合があります。
公共交通機関
業務で公共交通機関を利用する場合は対象外です。これには、鉄道、バス、タクシーなどが含まれます。
一時的なレンタカー利用
レンタカーを1日だけ利用するなど、短期間かつ非定期的な使用の場合は適用が除外されるケースがあります。ただし、運行管理者の裁量による場合があるため、事前に確認が必要です。
注意点と対応策
私有車の業務利用
従業員が私有車を業務で使用する場合も、アルコールチェックが義務付けられる場合があります。このような状況では、企業が事前に対象者を特定し、必要な対応を取ることが重要です。
特殊車両の扱い
重機や農機具など、業務専用の特殊車両を保有している場合も、使用状況によっては対象に含まれることがあります。これらの車両が公道を使用する場合には注意が必要です。
2023年法改正での変更点
2023年の道路交通法改正では、従来のアルコールチェック義務に加え、新たな規定が導入されました。以下は主な変更点です。
アルコール検知器の使用義務
従来の目視確認や対面でのアルコールチェックから、アルコール検知器を用いた客観的な検査が義務付けられました。
運転前後のチェックが必須
始業前に酒気帯びの有無を確認し、終業後にも同様の検査を行うことが求められます。このプロセスを通じて、運転者の健康状態と安全性を確保します。
故障時の対応
アルコール検知器が故障した場合には、速やかに代替手段を用意し、継続的な検査体制を維持することが求められます。事業者は予備の検知器を用意するなどの対策を講じる必要があります。
違反時の罰則強化
アルコールチェック義務に違反した場合、事業者には厳しい罰則が科されます。
罰金および行政処分
検査を怠ったり記録を保存しなかった場合、公安委員会の指導や罰金処分が科されることがあります。違反の重大性によっては、運行停止命令などの行政処分を受ける可能性もあります。
社会的信用の低下
違反が公表された場合、取引先や顧客からの信頼を失うリスクがあります。物流業や公共交通業では、企業イメージへの影響が深刻です。
実施のポイントと運用効率化
アルコールチェック義務化を円滑に実施するためには、法令に基づいた適切な運用と効率化のための仕組み作りが重要です。以下では、実施手順と効率化のためのツール活用について詳しく解説します。
アルコールチェックの実施手順
事業者がアルコールチェックを適切に行うための基本的な手順は以下の通りです。
1.検査タイミングの設定
運転業務の始業前と終業後に、アルコール検知器を用いて検査を実施します。このタイミングを徹底することで、運転中の飲酒や前日の飲酒による影響を防ぐことが可能です。
2.検査記録の保存
チェック結果を記録し、1年間保存する義務があります。この記録は、監査やトラブル時に証拠として活用されます。保存媒体は紙でもデジタルでも構いませんが、迅速に確認できる形で管理することが求められます。
3.故障時の対応策の準備
アルコール検知器が故障した場合、予備の機器を用意するか、手動での確認方法(他の管理者による目視確認や代替検知器の使用)を準備しておく必要があります。
4.直行直帰者への対応
営業社員やドライバーが直行直帰する場合には、モバイル型アルコール検知器やスマートフォンと連動したアプリケーションを利用することで、効率的かつ確実なチェックが可能です。
効率化のためのツール活用
効率的な運用のためには、以下のツールや技術を活用することが推奨されます。
デジタルアルコール検知器
測定結果を自動的に記録できるデジタル式検知器を導入することで、記録ミスや不正を防止できます。紙媒体での手動記録に比べ、業務負担を軽減できます。
クラウド型記録管理システム
検査データをクラウドで一元管理することで、従業員や事業所ごとの記録を効率的に検索・管理できます。監査対応や運用状況の可視化にも役立ちます。
モバイルアプリケーション
スマートフォンを利用してアルコールチェック結果を即座に報告できるアプリは、直行直帰や遠隔勤務が多い企業にとって有用です。
連動型カメラの活用
アルコール検知器にカメラを連動させることで、検査者の顔写真と結果を同時に記録し、不正防止に役立てることができます。
違反時のリスクと対策
アルコールチェック義務を怠った場合、事業者には法的・経済的リスクが生じます。以下では、違反時のリスクと、それを防ぐための対策を解説します。
違反リスク
1.事業停止命令や罰金の発生
アルコールチェック未実施や記録不備が発覚した場合、公安委員会から指導を受けるほか、重度の場合は事業停止命令や罰金が科される可能性があります。
2.社会的信用の低下
違反が公表されることで、取引先や顧客からの信頼を失い、業績に影響を及ぼします。公共交通や物流業界では、信用の喪失が致命的です。
3.労災発生時の責任追及
飲酒運転による事故が発生した場合、従業員本人だけでなく、管理体制を怠った企業も責任を問われます。
防止策
定期的な教育と研修
従業員を対象に、アルコールチェックの重要性や運用ルールを理解させるための研修を定期的に実施します。管理者向けには監査対応や緊急時の対応策を重点的に教育します。
内部監査の実施
社内で定期的に監査を行い、アルコールチェックの実施状況や記録の適正性を確認します。法令違反リスクを未然に防ぐことが可能です。
外部アドバイザーの活用
交通安全の専門家や法律アドバイザーを招き、現状の運用体制をレビューしてもらうことで、改善点を明確化できます。
まとめ
2023年12月に施行された道路交通法改正によるアルコールチェック義務化は、飲酒運転撲滅を目指した重要な施策です。アルコール検知器の使用義務や対象範囲の拡大、違反時の罰則強化といった改正内容は、事業者にとって新たな責任を求めるものとなっています。
この記事で紹介した対策を講じることで、法令遵守を徹底し、飲酒運転ゼロを目指す安全な事業運営が実現できます。デジタルツールの活用や研修制度の導入は、業務効率化と安全性向上の両立を図る上で効果的です。
アルコールチェック義務化は、事業者にとって新たな負担を伴う一方で、従業員の安全と社会的信用を守るための重要なステップです。この記事で紹介した情報や事例を参考に、貴社の運用体制を見直し、さらなる安全管理の強化を進めていきましょう。